「これ届けて欲しいの・・絶対にだよ・・お姉ちゃん・・。」
そう言って夢の中に出てきた漆黒の髪に漆黒の瞳を持つ少女は私の前からいなくなっていた。
目が覚めた時には何一つ変わらない景色が何一つ変わらない光景があるだけだった。
灯里:はひ・・今の夢、何?
前にも出会ったような感じがあって、それでも出会ったことがない不思議な気持ちに・・・。
まだ何処か心の中ではわだかまりが残っていていたのはいうまでもないことだった。
でもその夢が始まりだなんて考えたことがなかったのも灯里にとっては真実であった。
それは必然の幸せだった。そう誰かが幸福を運び込んでくれたような幸せだったのだから・・・。
:灯里?アリシアさんが朝食の用意出来たって・・・。
そう言葉を囁いてくれたのは、私と同い年のちゃんであって・・・。
正直、まだ朝だという実感を私は感じられなかった・・・。
でも私と同じ年であり、この所属に居たっけかという寝ぼけた疑問を私は感じていた。
少しずつ覚醒すれば、私は先程の夢が現実で、今この場が夢のような感じに見舞われていた。
けれどちゃんが呼びに来た瞬間だった。
私の脳は活動をし、今朝日が昇っているのを実感し叫んでしまった。
灯里:はひぃ〜!?もう朝なの・・・。
そう驚きように声を上げる私に、ちゃんはただ本当に驚いている顔をしていたのであった。
何故かまだ私にとっては夢の中にいるようなそんな感覚が抜け落ちないでいたのだから・・・。
黒猫がくれた幸福・・・。
アリシア:あらあら・・灯里ちゃん遅いお目覚めで・・。
そう言葉を囁いたのは水の三大妖精と言われる程の実力を持っているアリシアさんで・・・。
そのアリシアさんの笑顔にもまだ覚醒しきれていない私がいるのでありました。
:貴方、何を朝からほわわん状態な訳?
ちゃんは、私、水無灯郷の素顔を多少瞬きしながら見つめている。
そんなちゃんに私はただただ、呆然としている状態でしかなくて・・・ぽつりと呟いた。
灯里:変な夢を見ちゃったからなのかな・・・。
その言葉にちゃんとアリシアさんは交互にお互いの顔を見つめ疑問に感じていたのであった。
そしてアリシアさんが微かに微笑み私にどんな夢の内容であったのか教えて欲しいと聞いて来たのである。
そして漆黒の髪に漆黒の瞳の少女に届け物を任せられた夢の話をした時ちゃんは微かに苦笑をしてしまったのであった。
そしてアリシアさんも童話に出てくるような夢のお話だと私に呟いてくれたのであった。
:その少女が水先案内人に届け物を頼み、その届け物が終わったら少女が幸福をもたらしてくれる夢物語ね。
ちゃんは時折上品な言葉を使い私に親切にいろいろと教えてくれていたりする。
当然私は水先案内人になってからというものアリシアさんにもちゃんにもお世話になっているのであった。
火星のことをもっと知りたいという私の希望をちゃんもアリシアさんも叶えてくれるので暇があれば私は童話を聞いたりもした。
ちゃんは昔から童話が好きだったのかアリシアさんも知らない童話を教えてくれたりして大切な友達です。
灯里:でも今日の夢・・・なんだか現実っぽい所がありました・・・。
その言葉にちゃんは微かに苦笑をしながらその場で「史実かも知れないね」などと冗談を告げていた。
無論、ちゃんの表情は何故か寂しげでそれでも私の話を真に聞いてくれていたのであった。
:ね?アリア社長もそう思うでしょ?
その言葉にアリア社長は「ぷいにゅ〜」と返事をしながら朝食を取っていたのであった。
ちゃんはそんなアリア社長に微かに苦笑をし、自分も朝食を食べ始めたのであった。
:灯里・・・今日付き合ってくれない?
そんなちゃんの一言が私にとっての物語の始まりであった。そう夢物語のです・・・。
ちゃんが話をするまで、私はまだその夢物語が真実であることを理解するのは後の話・・・。
灯里:ほへ・・・。
ちゃんの言葉に私はただ呆然と頷くしかなかったのである。
ちゃんは私の言葉に納得をしたのか、支度をする為ゴンドラの整備をし始めたのである。
:・・・夢物語っか・・・昔の事みたいだな私もその夢見たの・・・。
ちゃんのその呟きを私が耳にしたのは私だけの内緒だった。
ちゃんは私に気がついたのかその場で苦笑をし、ゴンドラに乗るように促したのである。
灯里:ちゃん・・・何処行くの?練習なら藍華ちゃんとか誘わないと・・・。
私の言葉にちゃんは微かに溜め息を吐き、そして私の顔を見つめ微かに微笑んだのであった。
その微笑みはちゃんにとっては二人だけでお出かけをする意味なので、私は素直に受け入れたのであった。
そんな私にちゃんは満足をしたのか、再びゴンドラを漕ぎ始めたのである。
無論、ちゃんのゴンドラ漕ぎはかなり素敵で、私自身アリシアさんの次に尊敬をしていた。
:灯里、ねぇ貴女・・・ある猫の話を知ってる?無論、知ってると思うけど・・・・。
その言葉に私は頷いた・・・。何よりも私自身が幾度も似たような経験を行っているからである。
それはちゃんに話をしたらいつも「そうなのかも知れないね・・・。」という即答が返って来ていたから・・・。
灯里:ちゃん?
私はちゃんの様子が微かにおかしいことに疑問を感じた。
その表情からは微かに何か過去にあったとしか思えないこと表情をしていたからである。
:私ね・・・実は昔、猫妖精にあったことあるのよね・・・。
ちゃんにとっては猫との思い出は沢山あったようです。
ちゃんが可愛がっていた子猫が一度亡くなったことも、それからアリア社長との思い出も・・・。
:でも不思議・・・灯里が話をした猫だけどさ・・・昔私が飼ってた子猫のような気がするんだよね。
その言葉に私はただ「はひぃ〜」と叫ぶしかなかったのであった。
そんな時だった。私とちゃんの耳にとても綺麗な鈴の音色が流れ出して来たのは・・・。
灯里:鈴・・・ですね。しかも廃屋の方からです・・・。
私は何処か冒険心に駆り出されていたのはいうまでもないことであったのです。
そんな私にちゃんはただ「行って見ようか・・・。」っと苦笑混じりにゴンドラを漕ぎ始めたのであった。
最初はただ廃屋の町並みが続くだけであった・・・。
けれども、次第にまるで私達を迷わせるようにまるで迷宮と言ってもいいような静寂な場所だった。
灯里:戻りたくても・・・此処が何処か皆目見当がつきませんね・・・。
私の言葉にちゃんはただ「そうね・・・。」と呟き溜め息を吐いたのであった。
そしてその廃屋の先を進んで行くと一筋の光があったので、私もちゃんも真っ先にそこを目指したのであった。
その場に広がるのは多種多様の花畑で、私達はただ二人顔合わせ、正直この場所に驚いていたのです。
それからその場所には猫が数匹、花にじゃれ合うように走り回っていました。
そんな中、また鈴の音が聞こえたと思ったら目の前には私が夢の中で出会った漆黒の髪に漆黒の瞳の少女がいた。
そして少女は私に満足したのか微笑み、少女はちゃんに顔を会わせ笑顔を向けていた。
:ミシャ・・・なの・・・。
ちゃんは微かに戸惑ったのか昔飼っていた子猫の名前を告げたのであった。
少女はただ頷き、それから小箱をちゃんに差し出して姿を消した。
辺り一面は先程の廃屋と何も変わらなかった。そして変わったのはちゃんの手にあった箱だけであった。
ちゃんはその箱を即座に開けて、中身を見た瞬間微かに驚いていたのであった。
:無くなったと思ってたのに・・・あの子、私にこれを?
それは子猫が猫が首に付けている首輪だった。それを見つめながらちゃんは微かに泣いていた。
そんなちゃんを私はただそっと見守るだけであった・・・。それから・・・。
:ね・・灯里、今日の事は内緒にしましょう・・・二人だけの・・・。
そう告げたちゃんの言葉は何処か晴れ晴れとしていたのは真実だった。
それは微かだけれど、子猫が残してくれたほんの少しの私とちゃんだけの幸福の一時だったのかも知れません・・・。
〜 Fin 〜
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Music Box/Amor Kana 音羽 雪 by:月の祈り |