遊戯王デュエルモンスターズ --ANGEL VOICE--




一体コレは、何かの罠か?

オレの目の前には、安らかな寝息を立てて眠る  がいる。それもリボンを巻いてカードをつけて、プレゼント状態だ。
カードにはご丁寧に、「誕生日おめでとう」の文字。

手にしていたジュラルミンケースを取り落とし、床に激突する乾いたマヌケな音を、オレは他人事のように聞いていた。



ANGEL VOICE
            イルミネーション 真下にみおろし 夜を昇ってく エスカレーター 「ゴキゲンだね、杏子」 遊戯が隣から話かけてくる。どうやら私・・・真崎杏子は、ご機嫌で鼻歌をうたっていたらしい。 そんなに大きな声で歌ってたつもりはないけれど、狭いエレベーターの中にいるのだから、筒抜けだ。 私達はみんな各々、手に荷物を下げている。私はコンビニ袋をガサガサさせて、持ち替えた。 「まあね」 覗き込んでくる遊戯の視線をかわす様に体の向きを変えたけど、別の視線にぶつかった。 「鼻歌が出るなんて、よっぽどだゼ、杏子!なんかいいことあったのか?」 「杏子の鼻歌なんて聞きたくもねーって!」 闇遊戯の後ろから、城の内が茶々を入れる。これは、制裁を下すのがお約束でしょう。 「城の内!アンタね!」 私が振り上げた拳を、闇遊戯を盾にして逃げる。 バタバタと、闇遊戯を真中にして小さくも深刻かつ真剣なおいかけっこだ。 「おいお前ら!暴れんなよ!・・・ ねえさまからもなんかいってやってくれよ!」 モクバが小さなカラダを精一杯そらせて、威厳をもって言った。だけど、最後の最後で に頼る様では、まだまだだ。 は海馬コーポレーションビル外壁に取り付けられた展望エレベータの窓にへばりついて、外をみている。 両手を壁面について、おデコをぶつけてみいったままだ。 「暴れたぐらいじゃエレベータ、止まらないでしょ?じゃ、邪魔にならない程度にね〜」 はこちらも見もしないで、肩越しに手をひらひらと振った。 私は城の内を放り出して、 に後から抱きついた。 「なーにみてんの!」 「夜景」 「見慣れてるでしょ?おなじみのビルじゃーん?」 カクっと から力が抜けた。 「・・・たいてい瀬人に拉致られてるから、ちゃんと夜景見たことないもん・・・」 「うわあ・・・それはご愁傷様・・・」 理由が理由だけに慰めようがない。   チン!と思いの外可愛らしい音がして、最上階に着いた。       今日は海馬瀬人の誕生日。 今までは海馬の誕生日など祝うような間柄ではなかったけど、今年はそうはいかない。 様々な誤解と様々な真実を乗り越えて、(海馬がどう言おうと)私達は友達になった 。いや、知人かな?知り合い・・・ぐらい? 海馬にはナイショで、社長室をパーティ会場にして驚かせようというサプライズパーティ。 ・・・というより、海馬をダシにして、騒ぎたいだけ。 とにかく、誕生日、というちょっと特別な日。 本人の意志は関係ない。これはもうぜひとも祝うっきゃない!   海馬は、すべての決着がついた後も忙しくしている。 約束を交わしてどこかに呼び出すよりも、 追いかけていって捕まえた方が早いというモクバの話から、みんなで海馬のいる、ここニューヨークまでやってきた。 足代は磯野さん持ち。とてもありがたい。 「瀬人様に・・・瀬人様に、パーティをやってくださるお友達ができるだなんて・・・」 磯野さんと、海馬邸付シェフ吉田は、4筋の涙を流し号泣しながら、チケットを渡してくれた。 ・・・貧しい交友関係が忍ばれる。     無駄に広い社長室に到着。 海馬CPニューヨーク本社ビル最上階は、海馬兄弟の占有スペースになっている。 半分が社長室などの公の場。 半分が仮眠室と言うよりほとんど住んでるような、それぞれの個室のあるプライベートスペース。 わざわざ海馬の最愛の恋人(こう言うと、本人は思いっきり怒るんだよね・・・照れ隠しなんだけど!) のために本格的なキッチンまで作ったそうだ。 今回はプライベートスペースではなく、社長室を使うことにした。 これから、上品で高級そうだけどそっけない部屋をパーティ会場へと変貌させなければならない。   城の内と遊戯は室内の飾り付け担当のはずなのに、 マホガニーのテーブルだのファイルキャビネットだの、海馬特製パソコンだの、見たこともない豪華な室内を物色中だ。 「うわーそれダメ!それは触るな!」 その後をついて歩いて、モクバは二人に制止の声を上げてばかり。 私と闇遊戯は、持ちこんだ袋から色々出して、テーブルセッティング。 の指示ですでに、執務デスクの前のソファセットは壁際に移動されて、 大きなテーブルが一つ持ちこまれている。それにテーブルクロスをかける。 その間に、キッチンの方から、 はワゴンを押して食器の類を持ってきた。 「うわあ・・・さすがいい食器使ってるわねえ・・・」 思わず感歎の声を私は上げてしまった。フルートグラスをひとつ、取り上げる。 室内の灯りにかざすと、透明な光を弾いてキラキラと光る。 ・・・こーゆーのにこそ、 「ドンペリをひとつ、下さらない?」とかなんとかいうのに相応しいし、それが言えるとイケテル女なんだけどなー・・・ 実際にこのフルートグラスに注がれるのは、サイダーだ。ま、その辺が私達には妥当でしょ! 一通り必要なものを持ちこむと、 は再びキッチンに消えていった。 「ケーキ、期待してて!」   私達はその間に、 には秘密のミッションを開始する。私と遊戯と闇遊戯と城の内は目と目を見交わして、ひとつ頷いた。 モクバはそれをみて見ぬ振りをして、副社長室に引っ込んだ。 「じゃ、後のコトは任せたぜ!」 これから先のことは「オレは知らない」という、ソツのない意志表示だ。 「お任せください、副社長!」 私はニヤリと笑って、ビシ!と親指を立てた。モクバも同じくサムズアップで応え、消えていった。     室内の飾りつけも済んで、後は本人が来ると同時にパーティになだれこむだけ! 料理はそのときに改めて火をいれればいい状態にまでして、準備を完了。 そこを狙って、私は に提案する。 「ちょっとお茶にして一休みしない?」 はひとがいいから、疑うことなくお茶の用意にかかった。 ややわざとらしい城の内のはしゃぎっぷりも計算のうち。 そっちに気を取られている間に、ぽとりと素敵なお薬をティーカップに一垂らし。     ぱたりと壁際のソファに横倒しになって は眠ってしまった。     私は手のなかの小壜をちょっと振って、言った。 「さすがよく効くわね〜・・・完全に寝ちゃったかな?」 肩を揺すっても、起きる気配はない。よし! オトコドモはなんだか恐る恐る を私の肩越しに見ている。 「いまさらだけどよー・・・ヤバくね?これ???」 「なによ城の内!いまさら怖気づいたの?」 「や、だってこれは・・・ねえ?」 意味の通らないことをごちゃごちゃと呟きつつ、遊戯は目を泳がせている。 だけど闇遊戯は、かねて用意のリボンを袋から取り出し、準備万端だ。 私はすっくと立ちあがり振り向くと、腰に手をあてて二人を睨みつけた。 「しょうがないでしょ?海馬くんの喜びそうなプレゼント、ほかに思いつく?」 「・・・ないよな〜〜〜」 ならばコレは、全員の総意だ。 素早く、かつ丁寧に。私と闇遊戯はミッションを遂行する。   室内の準備は万端。私達からのプレゼントのラッピングもカンペキ!     1階ロビーに下りると、モクバからの情報どうり、ちょうど海馬がご帰還したところだ。 いつもどうり尊大で自信にあふれた歩みっぷりで社内に消えて行くのを確認すると、 私達は海馬にみつからないようにそっと、裏口の方から外に出た。 もちろんパーティは後でやるけど、まずは海馬にこのプレゼントを開けてもらわなくちゃならない。 私達はいったん、海馬CPビルを後にする。   十分に離れたところで、私はこらえきれなくなった。肩をふるわせて笑った。 「ねね!あれ、気にいってくれると思う?」 「そりゃそうだろ!・・・オレとしてはあげたくないんだぜ!」 私と闇遊戯は、顔を見合わせてはしゃいでるけど、後に続く城の内と遊戯の顔色は冴えない。 大方、全部があかされたあとの のお怒りが恐ろしいのだろう。 「オレとしては、海馬のヤローなんかに、いい目みせるこたーねえと思うんだけどよ!!!」 まだ城の内はブチブチ言ってる。ものすごい渋い顔。 私は夜の闇をすかして、社長室とおぼしき辺りを見上げる。 ・・・だけどねえ・・・ホントに海馬のイイメに、なると思う? 今日はいくつかの取引先をまわり、それなりの手応えを感じてニューヨーク本社に戻った。 社長室にはいる前に、秘書室に寄って、女達に今日もらった品を渡し適切な対応を取らせる。 今日はオレの誕生日だ。取引先からなにがしかのモノを渡された。 オレにとっては迷惑千万だが、これも会社の付き合いだ。 日本とちがい、お中元お歳暮年末年始がないだけでもマシなのだろう。 オレは とモクバからのプレゼント以外受け取る気はないがな!   その他いくつかの指示を出し、社長室に足を踏み入れたところで、オレは硬直した。 この目にはいる情報が信じられない。だがその視覚刺激は脳よりも先に、体の方を反応させる。     ・・・ が「私を食べて!」という姿で、落ちている。   ゴクリ オレが生唾を飲みこむ音が部屋に響いたような気がした。 同時に安らかな寝息を立てている が身じろぎして、まさかこの音で目を醒ましたのかと、一気に心拍数が上がる。 落ちつけオレ! ひとつ深呼吸をして、なんとか平常値まで心音を引き落とすようにする。同時にギクシャクと手足を動かし、 に背を向けた。 彼女は墜落睡眠の上にちょっとやそっとでは起きない筈。大丈夫だ。 首もとのネクタイを少し緩める。そして部屋のなかを見まわした。   社長室の中央にテーブルが出され、その上にケーキ。今回はザッハトルテか。艶々のチョコレートコートが、最上の気品を醸し出している。 ほかにも料理が乗り、食器が出ている。椅子がないのは立食形式にするからだろう。 テーブルを中心に、部屋のなかがとても社長室とは思えないほどに飾り付けられている。 なるほど。 パーティを計画したのだな?そしてオレの足取りを追ってここまで追いかけてきたのか。 そして、綺麗にラッピングしたプレゼントをソファに置いた。 つまり、プレゼントは 。・・・ にしては気の利いたことをする。   では、遠慮なくいただくとしよう。   だがその刹那、閃光のように掠めた思考に、オレは再び硬直する。 たしかに は艶やかな濃紺のリボンで包まれているが、これは本当に自分でやったことか? そもそも彼女はソファに横になり、眠っている。 左肩を下にして両手を顔の横辺りに寄せて、その両手首をリボンで括っている。 リボンの残りの部分が両腕から体まで一纏めにして緩くかかっている。結び目は蝶結びになって手首を飾っている。 これは一人で結ぶ事はできないだろう。 ということは、これをした誰かがいると言うことだ。・・・モクバか? それに、テーブルに出ている食器の数が、オレ達だけでパーティをするには多すぎる。 パーティの企画が とモクバだけのものであるなら、向こうの個室でやればよい。社長室でやる理由がない。 オレは頭痛を感じ、額に手をやった。 気付きたくもないし正直考えたくもないが、凡骨はじめ、遊戯と愉快なお仲間も、来るということだな・・・   ならば、このプレゼント状態の に手をつけるわけにはいかない。ヤツラにいつ、邪魔をされるかわからないからだ。 ひょっとしたら、この状態を出歯亀てるやもしれん。   おぞましい想像に、オレは即座に反応した。 愛らしい を放っておくのは、まさしく断腸の思いだが致し方ない。 素早く、もちろん を起こさない様に足音を殺して社長室のドアに向かう。 しっかりと鍵をかけ、セキュリティの方にも誰もいれない様に指示を出す。 そして、最上階のすべての部屋をくまなくまわり、下賎なヤツラの姿をその痕跡を探した。 一回りして、また の元に戻った。さらに社長室のなかを、細心の注意を払って物色する。 だが、人影もなければ盗聴機の類もない。     つまり、彼女と二人っきり。 舞は、コロコロと華やかに笑った。 「じゃあ、ソコまでお膳立てして、放置な訳?・・・アンタたち、面白い事するねえ〜」 笑いすぎて、ティーカップから紅茶が零れそうだ。 城の内と闇遊戯は、時間的に都合がつかなくて一緒にこられなかった獏良とバクラと本田を迎えに、空港に向かった。 その間に私と遊戯は、舞とレベッカと合流して、ホテルのティーラウンジで時間をつぶしている。 お勧めのお店だけあって、ケーキがとても美味しい。紅茶も高級なもので、何もかもが大満足な一品だ。 私は、ポワール・テを頼んだ。洋ナシのコンポートがたっぷりの、紅茶風味とメイプルシロップのかかったタルト。 舞は、ケーゼ・リーベ。いわゆるティラミスの事だけど、ナッツ系のリキュールのはいったマスカルポーネを使った、大人の味だ。 さっきひと口もらったけど、確かに私には少し早いみたい。美味しいけど。 レベッカは、アップルパイにバニラアイスを乗せて。日本じゃ考えられないぐらい、一切れが大きくて食べでがありそう。 遊戯はキャラメルマキアートのパフェ。 上にキャラメルソース、下にエスプレッソソースが入って、 間はバニラアイスやキャラメルアイス、グラハムクッキーのはいった、グラスパフェだ。 みんなそれぞれ飲み物も頼んで、「一口ちょーだい」なんてやって、一服しているところ。 そこで、今日のミッションを話した。 「うわーそれって、どうぞ食べてくださいってなもんじゃない!杏子!友達にそんなコトしていいの?」 レベッカはソバカスだらけの童顔からは想像もつかないぐらい、大人びたことをいった。だけどその顔は笑っている。 「大丈夫よ!・・・だって、海馬くんは絶対手が出せないもの!」 自信マンマンにいうと、私は洋ナシをパクリと口のなかに放りこんだ。   あの様子なら絶対大丈夫。 海馬の事だもの。カンペキにお膳立てされればされるほど、疑心暗鬼にかられて手が出せなくなるに違いない。 だからこそ、私は安心して をラッピングしたのだから。 だいたい、二人ともオクテ過ぎるのよ! はともかくあの海馬が、まさか、 に手も足も出せなくなるとは思わなかった。 「好き」って言って、「私も」ときたら、やる事はひとつでしょ! しかもあの二人、ドラマチックな展開には事かかない。 バトルシティでは、ハタで見ててバレバレだっていうのに、 お互いにお互いの気持ちに気付かずに、庇いあい支えあって困難を乗り切って。 に到っては3000年の因縁から海馬を毟り取って。その後では、ダーツに が攫われそれを海馬はとり返すために西奔東走。 結果、まさしく白馬に乗った王子様状態(白竜に乗った、かな?)でダーツを倒して。 ほかにもアレやコレや、普通の少女マンガならコミックス20冊は出そうなぐらいな展開があったっていうのに。 なんであの二人は、あのまんまかなあ・・・ 私の大事な親友の を、海馬なんかに持っていかれるのは業腹で、つい意地悪してしまうけど。先にその私がシビレを切らしてしまった。 心の交流の次の段階に、さっさと進みなさいよ! 恋人同士ならそれらしく、イチャコラしたってイイじゃない!ああもうじれったい!もどかしい!   私は自分の思考に沈みこんでいて、舞の声でハッと我に返った。 「でもあの男だよ?リボンクルクルの にグラッとこないだなんて、そっちのほうが問題じゃない?」 あまりのじれったさに、ついケーキに八つ当りしてしまっていたようだ。 グサグサとフォークを突き立てている。せっかくの美味しいケーキなのに! 私は何食わぬ顔で、崩したケーキのひとかけごとを口にする。 「海馬社長でしょう?考えすぎて、手が出なくなるタイプじゃない?」 レベッカ、ナイス洞察力。 女3人寄れば姦しいの言葉どうり、私たちはあの至上最強カップルを肴に、盛りあがった。 だけど遊戯はスプーンをくわえてニヤニヤしている。 「ボク、そうは思わないけどな・・・今度こそきっと、いくとこまでいくよ。うん」 「いくとこってどこ?ダーリン〜〜〜」 すかさず遊戯にレベッカがしなだれかかる。 むかっ腹は立つけど、女として、グッジョブなのも認めざるをえない。 さすがだわ、レベッカ・・・私の永遠のライバルなだけのことはあるわね! ごちゃごちゃいってる二人を分けるように、私は声をかける。 「遊戯、ずいぶん自信ありそうじゃない?やっぱり男として、リボンでラッピングはクルところがある?」 うん、っていったら今度は私がやってみよう。 「男のロマンだよね・・・でもそれだけじゃないんだ」 「私は手が出ないと思うんだけど」 「そうかなー?」 いつも素直な遊戯とは思えないぐらい、強硬に反対する。 よっぽど自信があると見た!だけど私も、「手が出せない」理由を知ってるからこそ、自信がある。 私と遊戯はじっと目を見交わして、にやりと笑ってから、どちらともなく言った。   「賭ける?」   「じゃあわたしは、手が出ない!」 「じゃ、アタシも」 舞は私の方についた。 「ボクは手が出るほうねー」 「私はダーリンと同じ方がいい〜」 速やかに賭けは成立した。コレから私のコトは、真のギャンブラーと呼べ! 私たちは共犯者の笑みを浮かべる。 耳もとでうるさいほどに、心音がする。 この密室に二人っきり。しかも は無防備に眠りを貪り、リボンに拘束されている。 コレでオレにどうしろと!罠じゃないのか! だが、オレの体は思いとは裏はらに・・・いやむしろ忠実に、 の方へと寄っていく。 そっと肩に手をかけて、揺り起こしてみた。 「 、起きろ・・・おい、 」 自分の声が自分のモノとは思えないほどに、動転している。何度か揺するうちに の瞼が震えはじめ、どうやら覚醒するようだ。 オレは少し勿体無いが肩から手を離して、深呼吸をする。 ふとテーブルを見ると、カップに紅茶が残っている。 オレは気を静めるために、その紅茶を一気に呷った。 ハーブティなのか、少し変わった味がする。カアっと腹の底が熱くなる。   ・・・しまった・・・凡骨ドモが残していった物体だ。きちんと調べてから口にすべきだった・・・   そう思ったときにはすでに後の祭り。 今まで強固に自らを律していたはずの理性が急激に力を失い、自分が欲望のままに行動しはじめる。 起きかけている にのしかかり、いつもよりも熱い口付けをする。 「勝ちはもらったよ、杏子」 「いちいち引っ掛るわねえ・・・その自信の根拠を教えてよ!遊戯!」 4人の間で賭けが成立し、負けたら童実野ロイヤルホテルでディナーをおごることになった。 私も遊戯も、自分の賭けに自信があるので、オッズが上がったからだ。 遊戯は悪戯を成功させた子供のように笑うと、ポケットから錠剤のはいったピルケースを出した。 「ダーリン、これなに?」 「ラヴポーションっていうんだって!獏良くんからもらったんだ〜ネットで買ったんだって言ってたよ」 舞がそのケースを手に取って、しげしげと眺める。 「なんだコレ、効き目が1番弱いやつじゃない?一瞬その気になって、そこまでってヤツ・・・」 「舞さん、詳しいね・・・」 さすが舞さん、大人の女! 「つまり、ボクの自信の源はコレってこと!」 なるほど・・・遊戯はすでに仕込を終えていたって訳ね。やるじゃない。 素直で優しくて・・・それは遊戯のほんの1面だ。 幼なじみの私は知っている。彼は実は策士だということ。 伝説のギャンブラー武藤双六の孫、というのは伊達ではない。 だけど。私だってその遊戯の幼なじみだ。 ゆっくりと、私は自信に満ちた微笑を浮かべた。そしてキメ科白を言い放った。 「それはどうかな!」 角度を変えて、何度も。自らのうちに巣食う欲望そのまま、彼女の唇を貪った。 オレの腕のなかで、 は目を覚ます。瀬人くん、と言う の言葉は外に出ることなく互いの間に閉じ込められた。 目蓋が震えて涙がたまり始める頃、ようやく身を離す。 「・・・なにがなんだかわからない、という顔をしているな」 こくこくと は頷いた。まだ声も出せない。潤んだ瞳を左右に動かして、必死に状況を飲みこもうとしている。 そしてようやく、自分の姿に気がついた。 「・・・なにコレ?みんなは?」 「お前はオレへのプレゼントだ。とてもいいものをもらった」 「ち、違う〜〜〜!私からのプレゼントは、そこに・・・」 あげられた抗議の声を無視してもう一度その甘い唇に口付け、さらにふっさりと閉じられた瞼から零れ落ちそうな透明な雫をキスで拭う。 「・・・瀬人くん、重い。コレ、はずしてよー」 羞恥に頬を染め、それでも はようやくコレだけいった。・・・ずいぶん余裕があるようだな。 「ラッピングを解いたら、中身はオレがいただくぞ」 「それは困る!!!」 即答。   はいまだにキスだけでも恥かしがる。その先などもっての外だ。 その奥ゆかしさ慎ましさも、オレの好ましく思うところではあるが、時にもどかしくなるのもまた事実だ。 じたばたとオレの腕のなかから抜け出そうと暴れる を押さえこみながら、妙な気分になるのを自覚する。 理性的な、と形容されるオレが、彼女に関してはそうでもないらしい。 肩を押さえ、そっとではあるが確実にソファに縫いとめ、耳元に口を寄せる。 愛らしい耳朶を甘噛みしてから、囁いた。 「解いて欲しかったら・・・お」 ガン! 目から火花が出るかと思った・・・。 は括られた両手を握り締め、オレの顎をカチあげた。 オレに最後まで言わせない、この手の早さも、彼女の魅力だ(負け惜しみ・・・そのぐらいわかってとるわ!) 「瀬人くん!イジワルしないでよ!」 ぷうっと がふくれた。コレ以上やると、きっと泣いてしまうだろう。 そうでなければ鉄拳制裁だ。その証拠に、蹴り上げる膝はすでにスタンバイだ。 フフン、と鼻先で笑うとリボンの先を咥え、ゆっくりと外す。 このぐらいの意地悪は許されてしかるべきだろう。 スルスルと解かれるリボンを見詰めているうちに、彼女の頬が赤く染まっていく。頬どころか首筋まで、真っ赤だ。 「少しは・・・いいだろう?」 ナニガ!と言わんばかりに は睨んでくるが、真っ赤な顔では愛らしいだけだ。 「初め、気に入ったのは・・・声」 「声?」 「そう、お前の声だ」 彼女の、オレを呼ぶ声。 心の闇に囚われ、行き先を失ったときでも、彼女の声はまっすぐにオレのところへと届く。 オレを捕えて離さない。 それを 本人は理解っていないらしい。 「うんと・・・瀬人の手、好き。それと、」 恥かしそうに口篭もりながらも、オレの想いに返してくれる。 それこそが、オレへの1番のプレゼントだ。 くすりと笑って、 は言葉を継いだ。 「すぐどっかにいっちゃうのも、好きだなあ」 「それはイイところか?」 変なところを気にいっているようだ。こくりと頷いて、 「初めはスッゴイ心配したけどね。今は・・・ちょっとワクワクするかも」 さすがオレの見初めた女!よくできている。   自由になった手首を掴むと、リボンをとりのけながら、その内側に唇を這わせる。 ビクリと が身体を震わせた。いつもとは違う刺激に、 は再び瞳を潤ませる。 そっと、掌にキスを贈る。 私たちは、海馬CPビル社長室前に集合した。 「さて。コレで賭けの移動はないかしら?大丈夫?」 先に集まっていた、私・遊戯・舞・レベッカに、 後から合流の城の内・闇遊戯・本田・バクラ・獏良、さらに後から駆け付けた御伽の総勢10名。 道すがら、先にやっていた賭けの話をしたら、全員が乗ってきた。 参加者が増えたことで、勝者に贈られる賞品が「お食事奢り」の場所のグレードが、ぐっとアップした。   「海馬は手を出さない」に賭けたのは、私・舞・城の内・バクラ・御伽。 「手を出す」に賭けたのは、遊戯・レベッカ・本田・獏良・闇遊戯。   結果はどう出るか。遊戯と私の仕掛けのおかげで、ギャンプル性が高くなった。 「まさか杏子が、あの紅茶に睡眠薬しこんでるとは思わなかったもんな〜」 遊戯がまだぼやいている。 勝利を確信したラヴポーションの投入。 だけどその同じ紅茶に、私が睡眠薬をしこんでおいたのだ。 「そりゃもう、象も立てないぐらいのを、たっぷりよ!」 に一服盛ったのとは別のお薬だ。 「どっちが先に効くか、わかんないもんね〜」 ニコニコと獏良が怖いことを言う。 「海馬シャチョーが手なんか出せるわけねえゼ!ヒャハハハハ!」 バクラはよく性格を読んでいるけど、お薬までは読み切れない。 獏良の科白にツッコミながらも、バクラは社長室扉に張りついたままだ。 鍵穴になにやら針金を突っ込んでごちゃごちゃやっている。 肩越しに獏良が覗きこんで、「まだ鍵あかないの?」とか聞いている。結構獏良は容赦ない。 本田と城の内は賭けを巡って、まだ言い争っている。 「海馬のヤローの毒牙に、 がかかってもいいのかよ!仲間じゃねえか!」 「そーは言ってねーだろ!ただアイツだって健全な男だってんだよ!!!」 ぎゃーぎゃーと言い争って、その間に挟まれた御伽が気の毒なぐらいだ。 「御伽!オメーはなんでそっちに賭けたんだよ?」 「や、ボクは・・・どっちかわかんないから、人数のあいてる方にしたんだよねー」 たはは〜〜〜と頭を掻いてる御伽に、本田と城の内は詰寄っている。 「たしかにどっちかわからなくなったわねー」 それをくすくす笑って見てるレベッカの明晰な頭脳でも、計りかねているようだ。   舞が、その色っぽい紅唇を開いて、問題発言を放つ。 「ねえ・・・扉をあけて乱入、はいいけど、もし「最中」だったらどうするの?」   静まり返った廊下に、かちゃりとロックの外れた音がする。     「最中ってなんだ?」 脳天気で場の空気をサッパリ読まない闇遊戯の声が、マヌケに響く。 「さささ最中っておまえ」 闇遊戯の肩を抱いて、廊下のスミッコに連れ込むと、城の内がゴショゴショと耳打ちする。 「・・・な、なにー!!!海馬のヤロー、あんなコトやそんなコトや、あまつさえこんなコトまで!!!ゆるさねえ!!!」 いきなり闇遊戯が大爆発した。 ウッカリ額のウジャト眼まで出てきてしまっている。 もう!城の内ったら闇遊戯に一体なにを吹きこんだのよ! 慌てて城の内が肩を押さえるけど、闇遊戯は止まらない。 「ゲームと正義の、ガクラン戦士!!!ラーにかわってお仕置だ!」 勢いのままに社長室に向かって駆け出した闇遊戯に、絶妙のタイミングで遊戯が足払いをかけた。 神々しく光り輝くウジャト眼から、床に突っ込んで動かなくなった。 「もー、もう一人のボク!自分で賭けといて何いってんのさー!」   闇遊戯が沈黙し、話はフリダシに戻った。 バクラが鍵はあけたけど、一体だれがこの開かずの扉を開くのか。 ・・・デンジャーな場面だったら、マチガイなく海馬にブッ殺される。 全員が瞳と瞳を見交わして、「オレは(ボクは)(わたしは)ご免だよ!」と目が言っている。 会話もなく、アイコンタクトですべてが決定した。 なにもいわずに、本田と御伽が城の内の左右の腕を取る。 扉の正面を空けるべく、みんなは立ち位置を移動する。 床に伸びた闇遊戯はレベッカと舞の手によって引きずられて隅に転がされた。 「オイオイオイ〜お前ら、なにする気だよ!」 城の内が慌てるけど、なんの意味もない。 「城の内くん、勇気を示してね!」 遊戯の無責任な声がかけられる。 「頑張れ〜」 ニコニコと獏良がいった。 「城の内ィ、骨は拾ってやるぜ!」 バクラが、タイミングよく扉を開けるために壁際に身を寄せた。 「いくぜ〜」 「せーの!」 本田と御伽の掛け声と共に、城の内が大きく振られてドアの方に吹っ飛ばされる。 「オメーらなんてゼッテーしんじねえ〜〜〜〜!!!!!」 そして城の内は星になった。 「ちょ、ちょっと瀬人くん!」 「・・・いやか?」 一応お伺いを立ててみる。・・・掌へのキスは懇願。 返事のないうちに、首筋へとキスを落とす。 は身を竦めて緊張はしても、はっきりとイヤだとは言わない。 それをいい事に、オレはより大胆に行動を・・・     「寝るなー!てか重いーーー!!!」 ガッツン! のナサケヨウシャのない左フックをテンプルに食らっても、オレは起きる事はできなかった。   いつもいつも、 いいところで・・・何故だ!                      最初に好きになったのは 声                      それから背中と整えられた指先                      時々黙りがちになる 癖                      どこかへ行ってしまう心とメロディ                        Angel Voice 名を呼んで 耳澄ます echo


Music Box/遠来未来-Enrai_Mirai- 逆凪 諒様 by:Baby Sweet


7600HIT!霜月さくら(九尾狐の森)さん、おめでとうございます! ありがとうございます!

リクエストは、「瀬人にヒロインが誕生日プレゼントを贈る。
もち、城之内や遊戯、アテム(阿藤遊)、杏子、本田、御伽などに邪魔される!

その間ヒロインが瀬人に隠し事をしていて、邪魔する側もそれを承諾済み!てのは如何でしょう?
当然、モクバも絡んでいて、誕生日まで瀬人が知らなかった・・。

あげく、モクバからも兄へのプレゼントとして、ヒロインと海外に行く!モクバと同様、磯野もそれに絡んでいる設定。
そんなこんなで騙されたり、邪魔されたりの誕生日なんていう作品書けますか?」でした。

・・・またしても外しまくってるのは、みんな周知の事実だよね・・・
てんでゴニャゴニャ考えて・・・邪魔したりってのは前に何回か書いてるんで、今回はちょっと趣向を変えて、
仕掛けはすでに済んでて、そのすべてのトラップを踏みまくるシャチョーとゆー・・・

しかも未遂!!!(ここ大事)

それと、あぐにーにさんから強力にプッシュされた、

「「Angel Voice」って曲がさー、メッチャ社長なんだよ!使って!!!」とゆー事なので、使ってみました。
最初と最後のがそう。杏子たんたらこの歌鼻歌で歌っちゃうって・・・古い曲なんだけど・・・(笑)

カラオケで聞いてみてくださいね〜

自分的には総勢13名、全部出せたんで大満足です。楽しかった!
ここんトコ、遊戯の株が上がっててツッコミ役として非常にありがたいです。そしてマイブーム、闇くんをボケに使う!


それとせっかくのキリバンなんで!!!甘くしたるゼ!と意気込んで、なんとかちゅーをいろんなトコにしてみました(笑)

その結果、シャッチョがメッチャエロオヤジなのは目をつぶって・・・
 
ついでなんで、ちゅーの場所の話。有名な話だからみんな知ってるよね?


手の上なら尊敬のキス
額の上なら友情のキス
頬の上なら厚情のキス
唇の上なら愛情のキス
閉じた目の上なら憧憬のキス
掌の上なら懇願のキス
腕と首なら欲望のキス

 
さてその他は、みな狂気の沙汰

by グリル・パルツァー


By:松江タツコ





素敵な作品有り難うですぅ〜
得に杏子と遊戯の賭け!彼氏彼女関係である瀬人とヒロインにそんな賭けあり?

はぁ〜しかも賭けは城之内達に大幅に賭けが盛大に・・
ってぇ〜これ完璧、やるかやらないかの賭けでしょうがぁ〜

まぁ?いっか彼氏彼女関係のそんな賭けも・・
瀬人の誕生日小説有り難う御座いました。

本当に楽しく読ませて頂きましたよ・・
なた何度でも読みたいと想っています。

背景など多少タツコ様のサイトより変更致しました。
背景などで楽しんで頂けるなら有り難いです。

七瀬 ネイ