蒼くキラキラと光る宝石
まるでアナタの瞳のようで…思わず心が奪われてしまった
ブルースピネル
「宝石展?」
「そうだ」
相変わらずすべらかに走る高級車の中で、海馬君から行き先を告げられた。
突然メールでたった一言『家の前にいろ』とだけ言われて待つこと数分。
やっと来たかと思えばまた『乗れ』とだけ言って…まぁ全部素直に従う私も私だけど。
乗ってみればぶっきらぼうに『宝石店にいくぞ』と言うだけ。
まったく、なんて愛想が悪いのか。というか今日はいつもより格段に悪い気がする。
「なんで宝石展?」
「招待状が来たからだ」
「宝石展の?」
「他に何がある」
「ない・・・けど・・・」
いつもならもっと優しいのに。私なにかした?
そんな邪険にされるとこっちもいい加減怒るよ?
それから宝石展までの道のりに、私達の会話は一切無かった。嫌な雰囲気。
(こんな事…付き合ってから殆ど無かったのに)
ギュッと手を握り締める。
いつもなら会話は無くても抱きしめてくれたり、頭を撫でてくれたり時々微笑んでくれたのに…なんで?
会社で嫌な事があって少しは当たってもすぐに、『悪かった・・・』って謝ってくれるのに…
お前のせいじゃないって、お前に当たるなんて不甲斐ないって、言ってくれるのに…
(本当に私何かした?)
彼が無愛想なのは分かってた。でもそんなところも好きだった。
だけど・・・今回のはなに?無愛想なんじゃなくて怒ってるような・・・
そんな海馬君の態度に私は出そうになった涙を必死にこらえた。
「ついたようだな。降りるぞ」
「あっ・・・」
私を見もしないで車から降りる彼。
あわてて自分も降りて、こっちも見ずにスタスタと行ってしまう彼を追った。
「まっ・・・てよ!」
いつもなら少しは待っててくれるのに。今日は何で冷たいの?
頬を掠める。痛いほど冷たい風みたいに、今日の海馬君は冷たかった――
入り口で止まった海馬君にやっと追いついて『ねぇどうしたの?』って聞こうとした。
でも相変わらず不機嫌な顔で聞けなかった。
私が追いついたと確認すると、またすぐに海馬君は、先に行ってしまう。
「あっ・・・ヤダ・・・」
入り口だと言うのに既に人が沢山いる。
それもどれも豪華な服を着ていて、多分偉い人たちばかりなのだろう。
駐車場にあった高級車。そして数から考えて、この宝石展にはかなりの偉い人がいそうだ。
そんな中にただでさえ制服で場違いな私は、とても視線に耐えられない。1人ならなおさら・・・
まだKCの社長の隣なら連れだと分かってもらえるだろうけど。
おいて行かれたんじゃひとたまりも無い。
「待ってよ・・・」
また頼んでみる。でもやはり見向きもしてくれない。
速度も落ちずすたすたと歩く彼。足の長い彼のはや歩きに私はついていくのが、精一杯だった。
でも、突然ぴたっと海馬君の足が止まる。あまりにも急で私は思わず海馬君に、ぶつかってしまった。
「いたっ・・・あっ、ごめ・・・ん」
『大丈夫か?』そんな言葉を期待した。心配の言葉じゃなくてもいい。
『まぬけだな』とか『気をつけろ』でもいい。とにかく何かを言って欲しかった。
でも・・・結局何も言われなかった――
「これはこれは海馬社長。」
黒のタキシードを着た。結構年が行ってそうな男が、海馬君に話しかける。
どうやら海馬君はこの人に用があって止まったみたい。
2枚チケットを渡しながら「招待感謝する」と会釈する。
そして私をあの綺麗な青眼で、ちらりと見た。そのことが嬉しくてボケーと見惚れてしまう。
「。いくぞ」
「あっ・・・うん」
「わぁ・・・」
この建物の外見自体も内装も、とても綺麗だった。
でも海馬邸も負けてはいない。だから大して驚いてはいなかったけど・・・
宝石が沢山展示されている部屋に入ると目を奪われた。綺麗・・・それ以外に言葉が見つからない。
宝石の山々に何も考えられない。ただうっとりとした、ため息が出るだけ。
「・・・?」
海馬君の声でハッとする。
「あっ・・・なに?」
「気分でも悪いのか?」
「ううん・・・ちょっと見惚れちゃって・・・感動だよ・・・」
「そうか・・・ならもっと近くに行こう」
相変わらずさっさと行ってしまう。もう慣れたけど…
急いでついていって並んだ綺麗で、透き通るような宝石をゆっくり見て回る。
気に入った宝石の前では何分も立ち止まったが、海馬君はずっと待っててくれた。
(機嫌・・・少しは治ったのかな・・・?)
綺麗な宝石も見れて。海馬君の機嫌も少しは良くなったようで
私も来て良かったかなって思い始めたとき。
「うわー綺麗ー」
とても大きな。見たことがないくらいの、大きさなダイアモンドがあって思わず声を上げる。
設置されてる場所も真ん中でどうやら目玉らしい。隣に立っていた女の人が
「コチラのダイヤモンドは完全に純な天然物で御座います。この大きさで不純物がない物はかなり貴重ですよ。
色はホワイトで一般的ですがそれも人気の証です。光も一番綺麗に反射してさまざまな色を、楽しませたりもしますよ」
この後も長々と続く話。でも、確かに目の前のダイヤはキラキラと輝いてとても綺麗だった。
ここに来るまでに見た、色々なカラーのダイヤも綺麗だったけど、オーソドックスなホワイトも綺麗だ。
それにやはり目玉にするぐらいはある。汚れ無き白さ。キラキラする輝きは目を奪われる。
ずっと見つめていたいぐらいに・・・しばらくダイヤモンドを見ていた。
でも、そろそろ行こうかなと海馬君を一目見る。彼は私の言いたかった事がわかったように。
「向こうも行くか?」と言ってくれた。
「うん!」
海馬君のブルーアイズから目を離して、まだ続く宝石展を見に一歩歩き出した。
そしてまた立ち止まったり見惚れたりしながら、もうすぐ終わる・・・と言う所まで来た。
「あっ・・・」
そんな時。キラキラと光る青い宝石が、目の端に映った。
まだ手前にも綺麗な宝石があったけど、そんなのは見向きもしないで青い宝石へと足を進める。
「おい…どうした?」
海馬君もそれについてくる。
急ぎ足で到着し、近くでその青い宝石を見つめると私は心を一瞬で奪われた。
「あっ・・・」
その青さは透き通るような青さ。
少し暗めで、強い力を秘めたような静かな青は、まるで・・・隣にたたずむ彼の瞳のようだった。
「気に入ったのか?」
長い間見惚れて動かなかったからか海馬君が聞いてきた。
「うん・・・凄い・・・好き・・・」
アナタの目の色のようで。なんだか落ち着けるの。
青い宝石は他にもあったけど、ここまで引かれる青は無かった。
「これ何かな?サファイア?」
かけてある名前を見てみると、それはサファイアではなかった。
なになに・・・・?
「ブルースピネル・・・?」
これ。ブルースピネルって言うんだ。
初めて聞いた名前・・・どんな宝石だろう?そう考えていた時。来た時にあった人がきた。
「海馬社長。なにか良いものはありましたか?」
何だ海馬君に用があるのか。
じゃぁ私は目の前で光る宝石を見てよう・・・
「あぁ。大分品揃えが良いな、も喜んでいたぞ」
「それは嬉しゅう御座います。おや。ブルースピネルに興味がおありで?」
「えっ、あっ・・・はい」
急にこっちに来られてビックリしながら答える。
「綺麗・・・ですよね。」
「そうですね。ブルースピネルは、他の青い色がある宝石・・・
例えばサファイア・タンザナイト・アウイナイト・カイヤナイトより落ち着いた深い青で、
かといって光が無い訳でなく落ち着いた大人な雰囲気の宝石です」
「大人・・・の宝石・・・?」
彼のことをちらりと見る。大人な雰囲気の彼の目。
そうか・・・やっぱり似てるんだ彼と・・・
そう思うとこの宝石が愛しくて溜まらなくなってくる。純粋に気に入ったと言うのもあるしね。
「ブルースピネルかぁー」
「気に入ったか?」
「うん。すっごく」
「そうか・・・だが他も見てみるか?」
「あっ、そうだね」
この宝石に目を、心を奪われて、他の宝石を見てなかった事を思い出した。
かなり名残惜しいけど貧乏人な私には、縁が無かったんだよねと諦め次の宝石を見る。
はまた嬉しそうに宝石を見だした。
口がずっと微笑んで目はキラキラしている。
周りにある大量の宝石は綺麗だとは思うが、
ただの石だと興味は無かったが、あんな嬉しそうなの姿を見れれば俺は十分に満足だ。
俺にはお前の方が宝石よりも眩しいから・・・
の屈託無く笑う表情も、怒って赤くなる表情も
悲しみで流す涙も、白く透き通る肌も・・・
全てが美しい。まるでさまざまに色が変わる、宝石のようだ。
(まさに俺の宝だな)
「あの。海馬社長」
「なんだ」
から視線を男に向ける。
「例の物は何でおつくりしましょうか?やはりダイヤモンドで・・・?」
例のもの・・・それはに渡そうと思う婚約指輪。
それの中心に入れる宝石の事だ。一般的にはダイヤモンドだし。
俺もダイヤを考えていたが『どうせならの好きな宝石がいいな・・・』と思っていた。
だがの好きな宝石はなんだ?と、そう考えていた矢先に、この宝石展の招待状が来たのだ。
さりげなく彼女の好みを知れる絶好のチャンス。
それにもまさか宝石展で自分が気に入った宝石が、婚約指輪になるとは思わないだろう――
だから本当はモクバ用に入れたのであろう。もう1枚のチケットをと来る事にしたのだ。
来る時はばれないかとか、婚約指輪を渡しても受け取ってもらえるだろうか?と
悩んでしまったりなんだか気恥ずかしいような気がして、 には冷たい態度を取ってしまったが・・・
宝石を見て楽しそうなを見たら、そんな不安や心配など何処かに去って行った。
俺は本当にお前の笑顔が好きなのだと、深く思い知らされたぞ今日は。
「そうだな・・・ダイヤも気に入ってたようだが・・・やはり1番はあの青い宝石のようだな」
まさかが俺の目に似ているから、あの宝石が気に入ったとはまったく知らずに、顎で宝石を指す。
「ブルー・・・スピネルですか?」
「あぁ」
「ですがやはり・・・婚約指輪ですと、ダイヤなどいかがでしょうか?あっ、ブルーダイアもありますし・・・
もしくは青ならサファイアなどもあまり変わりませんし、人気度や知名度からもオススメですよ」
なぜか焦っているように他の宝石を進める男。考えている事は容易に想像できる。
それはこのブルースピネルがダイアやサファイアに比べると、格段に安いからだろう。
勿論。純粋に『婚約指輪ならダイア』『知名度や人気あります』と、言いたかったのかも知れんが焦りぐあい。
そして値段を比べればブルースピネルは断然安いのも事実。
やはり売る側としては高い方を売りたいだろう。
まぁ俺としてもそこそこいい高い宝石が良かったが・・・婚約指輪にしては安いしな。
ダイヤも気に入ってたしアレを加工してもらうか・・・
だが・・・他の宝石を見ながらも、
ちらちらと気になるようにブルースピネルを見る。
それに見つけたときの嬉しそうな表情。
やはり貰う側がうれしい方が良いだろう・・・
「いや。ダイヤも捨てがたいがブルースピネルにしよう」
「・・・かしこまりました。すぐに加工いたします」
「あぁ。頼むぞ。」
「リングはこの前言われたとおりで宜しいですか?」
「あぁ」
うなずいたのを確認すると男は去って行った。
それを見送っての・・・愛しい彼女の元へ向かう。
「あっ、海馬君見てみて!これも綺麗だよ」
「本当だな」
ぱあっと明るい表情で話す彼女。
「でもやっぱりブルースピネルが1番綺麗かなー」
やはりあの宝石が1番気に入っていたらしい。
あれにして良かったと、ほっと胸を撫で下ろす。
別のが良いと言われたらどうしようかと気づかぬ間に心配していたようだな…
帰り際のエントランスで、海馬君は最初に会った人と話してた。
邪魔しちゃ悪そうだしつまんないし、私は大きな窓に近づいて空を眺めた。
綺麗に光る星に、宝石展でのことを思い出す。
(今日はいい夢見れそうね)
結構長居しちゃったな・・・綺麗で1個1個見るのに時間かかったから・・・
海馬君つまらなかったかな?
あんま宝石見てなかったみたいだし。帰りにちょっと謝ろう。
「。行くぞ」
「あっ、うん」
帰りは完全に機嫌が治ったらしい。私が行くのを待っててくれた。
速度も合わせてくれる・・・嬉しくてつい彼の腕に抱きついた。
「?」
「えへへ。海馬君大好き」
「なっ、何だ急に・・・?」
「なんかね。言いたかったの」
「変な奴だな」
海馬君顔が赤い。照れてるんだ・・・
赤い頬にそして青く揺れるブルーアイズは、とても映えていた。
(ブルースピネルみたい・・・)
あの宝石が忘れられない。アナタの目に似てると思うとドキドキしてしまう。
あんな素敵な宝石が付けられたら、どんなに幸せだろう・・・
でも。宝石に手は出せないな。
高いし・・・あーあ何処かに落ちてないかな。
ブルースピネル・・・アナタの瞳のような輝きの宝石…
車内から見える町の明かり。
キラキラ。空に見える星もキラキラ。
宝石もキラキラ。そして・・・彼の瞳も・・・
世界には綺麗な色が溢れてるんだなぁーなんて。
ロマンチックになりながら外を見ていた。
――異変に気づいたのは童実野の街中に入った時。
いつもなら何処かにデートやドライブした後は、
ウチに直接送ってくれるのに今日は家の方向じゃない。
それから海馬邸の方向でもない少し道が違う。
「・・・・?海馬君。どこか行くの?」
「あぁ」
「どこ行くの?」
「・・・行けば分かる」
「・・・ケチ」
その言葉に海馬君は答えなかった。
目を瞑って・・・寝たみたい。
どうせたぬき寝入りだろうけど。
キキッ。バタン。
目的地に着いたらしくドアが開く。
もう大分遅いから真っ暗・・・だと思ったけど、
目的地はライトアップがかなりされていて、明るかった。
むしろ夜の闇とライトの光でとても綺麗だった…でも
「ここ・・・海馬ランド?」
見たことがある景色。
海馬君が作り上げた場所。
「なんで・・・海馬ランド?」
車から降りる海馬君に聞くが返事は無い。
それどころか表情は真剣そのもので、私もそれ以上は追求できなかった。
「・・・」
ギュッと抱きしめられる。そしていきなりキスをされた。
あまりにも急で目を閉じる暇も無く、お互いに目が開いたままのキス。
海馬君の真剣なブルーアイズが近くに見える。
綺麗な青・・・大好きな青・・・
「あっ・・・」
「。愛している・・・一生側に居たい」
ポケットから取り出される小さな小箱。その中には・・・
「俺と結婚してくれ」
その言葉と、小箱の中身に驚いて、目を見開いたまま涙が出た。
結婚の言葉・・・そして小箱の中には、それを約束する婚約指輪。
リングはプラチナ。
そして小さなダイヤが散っていて、真ん中には青い。深い青のブルースピネル
「あっ・・・あぁ・・・」
嬉しくて言葉にならない。
アナタに似た宝石が婚約指輪だなんて。
「嬉しい・・・嬉しいよ海馬君!」
なきながら彼に抱きつく。キツク。キツク――
「指輪・・・はめてもいいか?」
「・・・うん」
差し出す手を受け取る長い手。
そして左手薬指にすっとはめられる指輪。
「綺麗・・・嬉しい海馬君」
再度抱きついて彼の暖かさを感じる
「気に入っていただろう?ブルースピネル…」
「うん。だって・・・」
「だって?」
そういいながら覗き込んでくる顔。
勿論目に入るのは私を移す青い宝石。
「だって海馬君の眼みたいじゃない!」
キッパリとそういうと彼は綺麗な瞳を丸くして、顔を赤くした。
でもすぐにふっと笑ってキスをしてくれた。
指に光るブルースピネル。
この宝石があれば離れてても、いつになっても海馬君が、この時が…
思い出せそうな気がする。幸せなこの時が――
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