遊戯王デュエルモンスターズ --あの日と同じ空--






『ねぇいつか、僕のお嫁さんにしてあげるよ』

『本当…?』

『うん、約束だよ』 




あの日と同じ空




その夢を見るのは、随分久しぶりのことだった
何で今更それを夢に見るのか不思議に思うぐらい、ずっと昔のこと

今の今まで、今日夢に見るまで、すっかりそんなことがあったのは忘れていた

彼女がまだ小学生にもなっていなかった時
一人の男の子に、いつか彼の妻になることを約束したのだ

とは言っても相手の顔は今ではぼんやりとしか覚えていないし、約束と言っても子供の口約束でしかない
随分前のことだし、相手もすっかり忘れているだろう

「…せと…とか言う名前だったかな」

確か少し年の離れた弟が居たはずだ
思い出そうとすればする程、些細なことではあるが彼のことを思い出せる

ゲームがとても強かったこと
特にチェスなどの戦略的なゲームは何度やっても勝つことが出来なかった

そして弟想いのとても優しい少年であったこと
ふわっと大きく欠伸をしてから、窓を開ける
…彼は今、何処で何をしているのだろうか



今日は一日、なんとも不思議な雰囲気の日だった
学校についても、何故か頭に浮かぶの夢に見た少年のことばかり

今何をしているのだろう、とか
どんな風になっているのだろう、とか

子供の時は綺麗な顔をしていたから、今はもっと美男子になっているに違いない 
もしかしたら、自分のことなど忘れているかもしれない

ついさっきまで、彼女も彼のことを忘れていたのだから
そう思ったら、少しだけ悲しくなった

もう逢うこともないだろう、人であるにも関わらず
頭を机の上に乗せて、少女は小さく吐息をついた

そしてふと視界に入った、一つの席
彼女は数週間前にこの童実野高校に転入してきたのだが、

その時からずっと、あの席を与えられているはずの生徒を見たことがない
今まで気にはなっていたのだが、今日はいつも以上に気になった

「ねぇ御伽くん」

顔を上げて、隣の席へと視線を向けた
彼は何、とでも言いたげに首を緩く傾げている

彼女は少しの沈黙の後、思い切って聞いてみることにした
形の良い指先で、無人の席を指し示す

「あの席の人って、いつも来ないんだね」

「あれ、知らなかったっけ?」

「え?」

大量の疑問符を頭上に撒き散らせながら、今度は  が首を傾げる番だった
知らなかったって、何だろうか

その席の人物が、誰でも知っている人という意味か
となると、芸能人か?

今人気のアイドルやテレビに出始めた若手の芸人などが浮かんでくる
だがそうだったとしたら、噂ぐらいには上がっているはずだ

高校生となれば、テレビに出ている人というだけで浮かれられるのだから
ミーハー根性とでも言うべきか

けれどそんな話は一度として聞いたことがない

「あの席はね…」

怪談話でもするように、御伽は身をかがめて声のトーンを落とした
もつられるようにして背中を折って耳を澄ます

彼が言葉を続けようとしたちょうどその時、ガラリという扉が開く音がした
反射的に其方に視線を向ける二人

彼にとってはあまり好ましくない人物が、
彼女にとっては初めて見る見知らぬ人物が、教室に入ってくる

何故だか二人は話を止めて、その人物に見入っていた
御伽は少し不機嫌そうに、眉根を寄せている

「…あれだよ、あの席の人」

仕方なし、と言った風に吐息をつくようにそう呟いた
椅子を引いて、その無人の席につく

初めて会ったはずなのに、何処かで見たことがあるような気がする
彼女が思ったのは、そんなことだった

そして知らず知らずの内に呟いた名前
それは御伽を、その席の人物を、…そして言った本人でさえ驚くものだった

「せと君…?」

頭の中に浮かんだ一つの顔
今日夢に見た子供と、その少年は酷似していた





ぼんやりとしか覚えていないが、見事に重なる
ハッとして、言ってから彼女は慌てて口を塞いだ

何を口走っているのだ、自分は
こんなところで、あの少年に逢うはずがない

そんな偶然があって良いはずがない
恐る恐る見上げた彼の顔は、とても驚いている様子だった

誤魔化すように笑ってみるが、大した効果はない


「ちゃん…、もしかして海馬君と知り合い?」

「…知り合いっていうか…その…」

勘違いでした、ともなんとなく言い難い雰囲気
だからといって知り合いだというわけでもない
何と言おうかと口を開いた彼女よりも、先に声を発したのは海馬の方だった

「 ?…貴様、もしかしてか!?」

「は、はい!」

がたんと、音をたてて立ち上がる彼
彼女も咄嗟に、返事をしながら立ち上がっていた

御伽は椅子に座ったまま、二人の顔を交互に見ている
回りにいる遊戯や城之内も何事かと海馬と  の方に視線をやっていた

久しぶりに登校してきたと思ったらいきなり問題起こしてるのかよと、
口には出さないものの城之内は完璧に呆れている様子だ

「やっぱり、せと君なの?」

「そうだ。まさか、こんなところで逢うとはな」

ニィッと、さも嬉しそうに口角をあげる
彼女はどうしたものかと、呆然と彼の顔を見つめていた

お昼休みに起きたちょっとした騒動
話のネタもなく面白いこともないその時間

クラス中は二人に注目したと言っても嘘ではないだろう

「ねぇ、二人ってどういう関係?」

横から杏子が少女のことを突きながら、尋ねる
少女は困ったように一度首を傾げた

随分逢っていなかったわけだし、幼なじみとは言い難い
友達という程親しい関係では昔はともかく今はそうではない

困っている少女を見かねたのかそれとも元々理由などないのか、
彼は彼女を代弁するようにたった一言を呟いた

それは決して大きな声ではなかったが、
彼らの話を聞こうと静まっている教室内に響くには十分すぎるほどの音量ではある




「許嫁だ」




数秒間の沈黙
彼の言葉を理解するのに、それだけの時間が必要だった

多分この中で最も間の抜けた顔をしているのは、当事者であるはずのだろう
ぽかんと口を開いて、彼の顔をまじまじと見つめている

許嫁という言葉の意味を最も理解するのに時間がかかったのは、彼女だった
何を言ってるんだとが言うよりも前に、音をたてのは御伽龍児

「嘘だっ!!」

「…嘘ではない」

煩わしげに眉根を寄せて、返す言葉は即答
御伽はびしりと海馬に指先を伸ばし、もう一度嘘だと叫んだ

…信じられない、信じたくもない
いきなり出てきた奴に、そんな突拍子もない事を言われてたまるかと彼も必死だ

「覚えているだろう、あの時の俺とお前の誓いを…」

彼女の顎に手を置いて、くいっと彼の方に顔を向けた
互いのことを確認し合うように見つめ合う二人

性格はともかく、うっかり見とれてしまうような良い男ではある
彼女は実際、彼の顔に見とれてしまっていた

耳元で囁かれると、嫌でも身体が熱くなってしまう
拒むように彼の手に自分の手を重ねる

『ねぇいつか、僕のお嫁さんにしてあげるよ』

そしてふと甦る昔の記憶
それは今朝見た夢と同じものだった

あんなのは子供同士で勝手にした誓約書も何もない簡単な口約束
だから、今更もう相手は真剣にとってはいないと思っていた

少女は頬をうっすらと紅潮させて、視線だけを下に向ける

「…私…」





「ちょーっと、待った!!」

応えようとすると海馬の間に、御伽は慌てて割って入った
突然登校してきた海馬瀬人に、気になる人をいきなり奪われるのは面白くない

それは好きだという感情には未だ至ってはいないかもしれない
だけど御伽はキッと、海馬のことを睨み付けた

「海馬君、DDMで勝負だ!」

いきなりの御伽のその言葉に、動じるような海馬ではない
今までこれぐらいの…これ以上の障害など楽々とクリアしてきている

DDMというゲームは名前ぐらいしか聞いたことはなかったが、
どんなゲームか知らなくても勝てる気でいるのが海馬という男

『その後は俺とデュエルしてもらうぜ』

ズイッと声をハモらせながら出てきたのは城之内克也と闇の方の遊戯
手にはしっかりと魂のカードを握りしめている

「  ちゃんが欲しかったら、僕らを倒すことだね」

どうしてこんな展開になったのだろう
痛む頭を押さえながら助けを求めるように隣にいる杏子の方に視線をやった

女はただ、無駄だと言う代わりに肩をすくめてみせる
興味津々だったはずのギャラリーも、飽きたのか各々別のことやっていた

「愚民共が、まとめて相手にしてやるわ。ハーッハッハッハッ!!」
「…もう私知らないからね」

高笑いといういかもう馬鹿笑いと言っても良いような笑い声を上げている彼を見て、
ふぅっと軽くはない吐息をつきながらそっと窓の方へ視線を送る




いつかと同じ空が、其処には広がっていた






Music Box/遠来未来-Enrai_Mirai- by:七曜-日-

Thank you for 500,000HIT Over!!

感謝の気持ちを込めて、リクエストして下さった霜月さくら《旧HN》様に捧げます!!
幼い頃に許嫁宣言をされ、高校生活中他キャラとのヒロインの争奪戦というリクエストでした

なんかちょっと違うような…気もしなくもないんですが…
微エロ要素は入れる予定だったのですが入れられなくなってしまいました…

ごまかし程度にそれらしい文章を一行だけさりげなく(もないかもしれませんが)
入れたのですが……、上手くそれらしく書けず申し訳ありませんでした><

最後になりますがリクエスト有り難うございました!!

By:紅華 麗様

いぇいぇ、大変素晴らしい小説を有難う御座いました。
必然的な再開、そして波乱万丈な生活へって感じで楽しませて頂きました。

素敵な作品をどうも有難う御座いますという感じです。
これからもサイト運営にお互い頑張って行きましょうね。

本当に面白く読ませて頂きました。
ヒロイン最高でした。瀬人なので、ありえる行為です・・・ν

嵐翠狐白 管理狐 七瀬 ネイ