お父さん。お母さん。
私…幸せになりますから。必ず…あの人と…
ハッピーウエディング
純白の白い布に身をつつみ、備え付けの椅子に腰かける。
目の前にある大きな鏡には、最後の確認をするお母さんの姿があった。
「うん。大丈夫よ」
そう嬉しそうに話すお母さん。
「有難うお母さん。変なところなかった?」
「もう準備万端よ!綺麗よ…とても」
ホラと鏡を指指すお母さんにうながされ鏡と向き合う。
そこには白い…これ以上無いくらい白くて純粋な色。
子供の時からずっと憧れてたウェディングドレスを、身に纏って幸せそうな私がいた。
化粧もされ。唇は朱に染まっている。
「なんか…緊張する…」
トクントクンと高鳴る鼓動を胸に感じ手を当てる。
なんだかその心拍音に感化されたのか、唇が小さく震えだしてきた。
そんな私の様子を分かったのか肩にポンと母の手が置かれる。
「。落ち着いて…アナタは今日幸せなはずでしょう?そんな怯える必要はないのよ」
「・・・でも・・・」
「もし不安でも。アナタの隣には彼がいてくれるでしょう?今までもこれからもずっと…不安なら彼の事を思いなさい。」
彼・・・のこと?彼・・・私の彼氏だった人。
そして今日から旦那さんになる人。私の…婚約者…
「海馬…君…」
「そう。彼のこと、信用してるんでしょう?とても…愛してるのでしょう?」
「…うん」
「なら信じなさい。彼はアナタを受け入れてくれる。不安なんて消し去ってくれる。あなたの1番の特効薬なんだから」
「うん」
そうだねお母さん。彼は私の不安なんて全部蹴散らしてくれるよ。
その彼が隣にいてくれるんだもん。怖いものなんてなしだよね。
(あっ…)
震えが止まってる。でもまだ胸は高鳴っていた。でもそれは不安なんかじゃない。
期待の…喜びの高鳴り。
(海馬君。私アナタのお嫁さんになるんだね)
じーんとこの気持ちをかみ締めながら、鏡に映る自分を見た。
タキシードなんてもう着慣れたものだし、男は特に化粧なども必要ないからすぐに準備は終わった。
ただ今日の俺との結婚式に呼んだ。
なになに社の社長だとか、どこどこの社長だとかの対応に追われて、俺は忙しくてため息が出そうだった。
俺もKCの社長と言う身。付き合いの会社の人間は呼ばなければならない。
大なり小なり…莫大な量だ。それになんだか報道者も来ていて、俺の所に人が入れ替わり立ち代り引っ切り無しに来る。
の所にはまだ準備中というのもあって、誰も行ってない様だが…
とにかく。まだ結婚式前なのに、俺は心底疲れ果ててきた。だが…相変わらず
「この度はお忙しい中、来て下さって有難う御座います」
などと話しながら頭の中でを思い浮かべた。
愛しい最愛の彼女。そして俺の妻。まだ今日は来る時にあっただけだから
ウェディングドレスを身に纏った彼女にはあってないが、ドレスを選ぶとき。
一緒に行ったので、そのときの彼女を思い出す。
嬉しそうに白や淡いピンク、ブルー。
短い。ミニスカートのようなウェディングドレスやキラキラと宝石がついたドレスを眺めて、何着か試着していた彼女。
その時のドレスはとてもよく似合っていたな…結局はオーソドックスな白に、ロングドレスにしたが。
やはり1番。それが綺麗だった…少し。控えめに小さなダイヤが散っていて、歩くたびにキラキラと光る。
それを見たときのといったらしばらく見惚れていて、動けなかったようだな。
他のドレスを着ても結局はそれに目が行っていて。
(そういえば…)
そのドレスはたしか試着しなかったな。なんでも本番で着たいとか…?
女の考えてる事は良く分からんが多分『式までのお楽しみ』と言うことなのだろう。
俺も…俺もあの時見ていなくて良かったと、当日になった今では思っている。
あの綺麗なウェディングドレスを着たは、どんなに可愛いだろう…
どんなに美しいだろう…そう考えるだけで早く会いたくて、今の人に囲まれてる状況もうっとうしくもあるが耐えられる。
これが終われば会えるのだと思うと、どんなことでも出来る気がする。
(…会いたい。早く)
こんなに人を好きになるなんてな…この俺が。
でもこの気持ちは紛れもなく本物。 …俺はお前を愛している。
早く…式が始まらないか…そしたらお前と会えるのに
ゴンゴン!と荒々しいほどのノックの後、「失礼しまーす!」と部屋に入ってきたのは城之内君だった。
それに続いて杏子や静香ちゃん。本田君やバクラ君や御伽君も入ってくる。でも…あれ?遊戯君はいないみたい…
「いらっしゃいみんな!」
「おぉー!綺麗だぜ!」
惜しげもなくそういう城之内君。彼は嘘をつかない性格、と言うのが分かってる為に妙に照れてしまう。
お世辞でもそういわれたら嬉しいだけに、余計顔が赤くなる。
「ホント!綺麗ちゃん!いいなぁー憧れのウェディングドレス!あっ!私ぜっっったいブーケ取るからね!」
そう息荒く宣言するのは杏だ。
「OKvでも倍率高いと思うよ… 今日なんか人いっぱいいるから…」
「ねぇーさっきから知らない人ばっかり」
「なんなのあの人たち?」
そうのほほんと言うのはバクラ君と御伽君。
「あぁ。あの人たちは海馬君のお世話になった人…?らしいよ。多分会社関係だと思う。
私が呼んだの数十人くらいなのに、海馬君はなんかすごい呼んでたような…」
「相変わらずすごいわね」
「まぁKCの社長となれば付き合いとかあるんでしょう」
「どうりで結婚式場も豪華ででけぇと思ったよ…」
うんうんと納得する皆に苦笑がこぼれる。彼が付き合いが広いと言うことは知れ渡ってるのだ。
なんていってもあのKCの会社だもんね…そう思うと凄い人のお嫁さんになるんだなぁー私。
頭の中で思うのは。やはり世界で1番愛している彼のこと
友達と会話しながらも、いつも頭の片隅にはアナタがいるの…
未だ尽きることもなく次々来る人間の対応に追われている。
「兄サマ」
そんな時にふと後ろから声をかけられた。
「モクバ。どうした?」
「遊戯のヤツが呼んでるけど…どうする?」
「遊戯が?」
まだ次次と来る人はいるが、いい加減休んでもいいだろう。
それに、少し気になることがあったので、「分かった。すまないが少し外す」と言って遊戯のところへ向かった。
この会場はすでに溢れかえるくらいの人間がいて、バラバラと散っているので
人がいない場所など無いと思ったが、遊戯がいた休憩所には人っ子一人見当たらなかった。
「よぉ海馬」
俺を見つけたらしい遊戯が片手を軽く挙げて話す。だがすぐいつものポケットに手を入れる体制に戻った。
「なんのようだ?俺はキサマと違って急がしいんでね。話なら足早にお願いしようか?」
「なんだよ連れないぜ。まぁ仕方ないか、なんたってお前は今日の主役だからな。忙しいのも分かるぜ」
「だったらとっとと用件を言ったらどうだ!?」
相変わらずの人を小馬鹿にするような話し方に、来なければ良かったと真剣に思う。
「別に・・・用件っていうのはないんだけどな、ただ一言言おうと思って」
「なんだ!?」
「・・・・・・・・・・・・ゲームはまだ終わってないぜ」
「なっ・・・!」
気になっていた言葉。聴きたくなかった言葉がポツリと発せられる。
「なにを…!」
「お前がもし。アイツを不安にさせたり、アイツが少しでもお前から離れたら…容赦なく奪うからな」
「遊戯・・・」
「取られたくなかったらしっかり捕まえとけよ。人妻って言うのは奪いたくなるもんだろ?そんだけだ。じゃぁな」
自分の言いたいことは言ったと、すっきりしたように去っていく遊戯。
もう遊戯の後姿が見えなくなったときに俺は小さく、「あたりまえた…誰が放すものか」と呟いた。
そしてザワザワとざわめく方に再び戻っていった――
その時。遊戯の言っていた『ゲーム』のことが頭の中によみがえる。
あれはそう。俺がにプロポーズするか、迷っていた時だ。
婚約指輪をラッピングした箱を、手に持って、1人社長室で悩んでいた。
言うべきか…だがもし断られたらと、いつになく不甲斐ない自分にイライラしながら
でも行くとなると足がすくむ情けない自分に、やきもきしていた時、ふと窓の方に振り返ると遊戯がいたのだ。
「遊戯!キサマ…何処から入った!?」
「ちょっと邪魔するぜ海馬」
答えになってないぞ!と叫ぼうと、口を開けるがそれより前に遊戯の「海馬。ゲームしないか?」という言葉の方が早かった。
「・・・ゲームだと?」
「そう。まずはやるかやらないか。答えを聞こうか?内容はそれからだ」
内容がわからんゲームになぞ乗れるか!…と言ってやりたかったが、ゲームから逃げると言うのは腹ただしい。
そう考えたのが遊戯にも分かったらしく遊戯は、「まさか逃げるのか?」とあの挑発的な目と言葉で言ってきた。
「逃げるわけが無いだろうが!この俺が!」
妙にあの顔を見ると腹が立つ。さらに俺が承諾したのを満足そうに、さもフフンと笑い出しそうな顔にも腹が立つ。
「遊戯!言うがいい!貴様が言うゲームの内容をな!」
「じゃぁ遠慮なくゲーム開始させてもらうぜ。ゲームの内容は…どっちがにプロポーズしてOKをもらえるかだ」
「なっ!」
あまりの内容に本気で驚いてしまう。パクパクと口だけ動いて何もいえない。
…遊戯が…遊戯がを好きなのは知っていた。
俺とは付き合っていたがそれでも遊戯は、 の事を諦められなかったらしい…
だが、決して遊戯は横取りするような事はしなかった。
むしろ気を使ってくれていると思わせる行動もあって、応援…というものでないにせよ。
俺との仲は認めてるのだと思っていた。
だが…それは俺の思い過ごしということか?しかもゲームでプロポーズなぞふざけている!
「遊戯…キサマ!」
心のそこから怒りの声を上げる。だがヤツは相変わらずの態度だった。
「まさか内容を聞いて脅えたのか海馬?そんな臆病者には渡さないぜ」
「くっ…」
「俺はこれからにプロポーズに行く。
お前とは付き合ってるらしいが、答えは分からないぜ。最近が不安がってるの知ってたか?」
「なっ…なにを不安がってると言うのだ!?」
「さぁ…それは言えねぇな。ゲーム対戦者…つまりライバルに、情報を教える馬鹿はいないぜ」
「おのれぇ…」
「ただ、は大きな不安で悩んでた。それの相談を俺は受けてたぜ」
(俺にではなく…遊戯に相談した…だと…)
握り締めた拳が震える。それは怒りなのか動揺なのか嫉妬なのか、もはや自分でも分からない。
「その辺りで俺もお前に引けを取らないぜ!OKされる可能性は似たり寄ったりかもなぁ海馬」
「くっ…まさか…」
「どうやらこれは先にプロポーズした方が、勝ちになる可能性が大きそうだぜ…
じゃぁな海馬。俺は一足先にの家に行くぜ!お前が来るころには…もう俺はの婚約者かもな」
「…なっ…まて!遊戯」
すっと窓を開け、そこから飛び降りる遊戯。
高さはあるはずなのだがどこから入ったかも、分からないやつだ。多分無事だろう…
今はヤツの事よりもの事だ。俺は急いで受話器を取ると
早急に車を用意するよう執事に言い付けた。目的地はの家。なんとしても遊戯より先に行かねば…
の家に行くまでの車内。
もう夜中ということもあって嬉しい事に、道はすいていた。だが気がかりな事があって、落ち着いていられない。
まだかまだかとずっとそわそわしている。気がかりなのは…遊戯の事もそうだが…1番はの悩みだ。
俺はなにも聞いていない。俺の前ではアイツはいつも笑顔だったから…
(もしやアレは嘘の笑顔だったのか…?)
そう思うとさらに不安でたまらない。目に見えぬ闇が大きくなって、自分も飲まれてしまいそうで震えが止まらない。
(ふっ…俺と言うものが恐怖に飲まれるとはな…)
自虐的に笑う。好きな人間の事になると人はここまで臆病になるのか…
「…」
小さく愛しい人の名前を呟いて、彼女に渡そうとずっと悩んでいた指輪の箱を握り締めた。
早くつけばいい。だが早くつきたくない気持ちもある。遊戯に…いや他の誰でさえもを取られたくない。
だから早く行きたい。だが、 が俺の気持ちを受けてくれるかと考えると不安だ。
(俺らしくないな。こんな弱気になるなんて…)
いつでも強気でいられると思っていた。だが自分の命よりも大事なものを失うかと思うと…
「瀬人様」
「なっ…なんだ?」
「様の家に到着いたしました」
「そっ…そうか」
バタンとドアを開けて外に出る。夜風が気持ち良い。空も一面の星空だった。
「脅えてても仕方あるまい」
ぐっと拳を強く握って携帯電話を取り出した。に電話をかける。
夜中だし寝ているか?と思ったが意外に早くは電話に出た。
「もしもし海馬君!?」
「か…?」
「どうしたの?こんな夜中に…」
「すまない。起こしたか?」
「ううん。平気だよまだ寝てないから」
「そうか…。今から会えないか?お前の家の前にいるんだが…」
「えっ!本当!?」
「あぁ。家に上がらせてもらうのは悪いからな、こんな夜中だし家族は寝ているのだろう?」
「うん…分かった!ちょっと待っててね!すぐいく!!」
その言葉を最後に一方的に電話は切られてしまった。
多分急いで出てくる気なのだろう…相変わらず元気このうえない。悩みなんて微塵も感じない…
「おまたせ!待った?」
「いや、ずいぶん早かったな」
「そりゃ家の前ですから」
へへっと笑う。元気な彼女。だが遊戯の言葉が思い出される。
―は大きな不安で悩んでたぜ―
「…」
気づいてやれなくてすまなかった。俺は駄目だな…
「かっ…海馬君…!」
気がついたら俺はを抱きしめていた。きつく…きつく…
「どうしたの?なにかあったの?」
「…好きだ」
「えっ…?」
抱きついて互いに顔が見えないまま、ポツリポツリと呟く。
「好きなんだ…お前の為ならなんでもしたい。不安なんて消し去ってやりたい。そのためなら俺の命だって捧げる」
「か…いば…くん…」
「。結婚しよう。ずっと側にいる。お前の悩みなんて一生俺が消しててやる」
体を少し離してと向き合う。彼女は顔を真っ赤にして、目を見開いていた。
「だから…結婚しよう。幸せにする…必ず」
「…あっ…」
彼女に指輪を差し出す。は、震えた手で受け取ってくれた。
「…返事を聞かせてくれないか?」
しばらく呆然と、なにも言わずに、ただ驚いたように箱を眺めていた。
だが次第にの目に涙がこみ上げてきた。
「どっ!どうしたのだ!?もしかして嫌だったのか!?」
「ちっ…がっ…」
バッ!とに抱きつかれそのまま唇を奪われた。
「嬉しい…よっ…嬉しい…海馬君…」
「…良かった…」
そのまま泣きじゃくるをそっと抱きしめて、愛しいの頭を撫でてあげた。
そんな2人を高い木の上から眺める影。
(ねぇもう1人の僕)
「なんだ相棒」
それは海馬にゲームを持ちかけた遊戯だった。
(キミって不器用だよね)
「・・・」
(素直にちゃんが海馬君にプロポーズされない!って悩んでたって言えば良いのに)
「・・・・・・」
(わざわざゲーム形式にするなんてさ、しかも勝ち目決まってるじゃない。キミは棄権だしちゃんは海馬君オンリーだし)
「分かってるぜ…相棒」
が海馬が大好きで、海馬もが大好きな事は分かりきってた。
俺もが好きだったが、 が海馬といる時の幸せそうな顔を見たら、邪魔なんて出来なかった。いやしたくなかった。
俺も1人の男として2人のことを祝福していたんだ。
(じゃぁいいじゃない。素直にキューピットになれば)
「…言っただろう相棒。俺もが好きだったんだぜ。ちょっとぐらい意地悪しても良いだろう。ほら…」
(ん?)
遊戯が指差したのは仲良く寄り添う海馬と。
「結局上手く行ったんだからさ」
(そうだね…これも意地悪なキューピットのお陰かな)
「相棒…」
(うそうそ。キミも可哀想だよね。今度なにか奢ってあげるよ)
「…あぁ」
「もー!なんでキミはそうなわけ!?」
遊戯はもう1人のユウギに話しかけた。
(何がだ?)
「海馬君にさっき言ってた『ゲームはまだ終わってない』ってヤツ!素直にちゃんを幸せにしてねって、言えば良いのに!」
(…だから…少しぐらい意地悪させてくれても良いだろ…)
「今日はめでたい日なんだよ!海馬君が不機嫌になったらどうするの!?」
(…すまん)
「もー!この前奢ってあげるって言ったけど、あれやめるからね!」
(・・・)
心の中で黙ってしまったユウギに、少し言い過ぎたかな?と思いながら遊戯は、 の控え室のドアを開けた。
「うわー!」
あけたと同時に目に入ったに、遊戯は一瞬見惚れてしまう。
「おう遊戯!やっと来たな」
「城之内君!」
「いらっしゃい遊戯君」
「ちゃん…うわぁー綺麗だねぇ。海馬君も幸せ者だなぁ」
そういうとは白い頬を少し赤くさせた。
それがまたなんとも色っぽさに、拍車をかけている。
「。そろそろ時間みたいよ」
「えっもう?」
しばらく遊戯君達と談話をしていたのだが、どうやらもう式の時間らしい。
とんとん。とノックされてモクバ君が入ってきた。
「姉さまーもうすぐ時間だぜぃ」
「ほら。立ってもう1度チェックするから…」
ぐるりと隅々まで見渡すお母さん。
「一生一代のはれ舞台ですからね…」
そういいながらウェディングドレスを見るお母さんは、嬉しそうで、でも何処か寂しそうな目をしていた。
あぁ…そうだ。もう私はお嫁に行くんだもんね…
でもお母さん。お父さん。悲しまないで、私幸せになるから…あの人なら幸せにしてくれるから…
「じゃぁ俺は行くか。!花嫁のご登場待ってるぜ。それから…一応花婿もな」
「城之内君…」
「ヴァージンロード歩くなんて羨ましいぞっ」
「杏子…」
「幸せにな」
「海馬君と仲良くね」
「本田君に御伽君」
「早く誓いのキス見たいなぁ」
「獏良君…」
みんな有難う…なんだか涙が出そうだよ。
「泣いちゃ駄目だよちゃん」
「遊戯…」
「せっかくの化粧が落ちちまうぜ」
「ユウ…ギ君」
急にドンと人格交代されて少し戸惑う。でもお陰で涙をこらえる事が出来た。
「有難うみんな」
それぞれがじゃぁなと手を振ってくれて、今まで騒がしかった部屋がしんっと静まり返った。
静かな部屋で心にある暖かいものをかみ締める。
コンコン。
「はい…あっ…」
「。迎えに来た…行こう」
ドアを開けるとそこには海馬君。白いタキシードがとても似合っている。
「海馬君…カッコいい…」
「なっ…!なにを言ってるのだ」
照れてる…可愛い。あぁ、この人のお嫁さんになるんだと思うと、嬉しすぎて涙が出そうだ。
「その…」
「ん?…似合ってるぞ。綺麗だ…」
「本当!?」
嬉しい。嬉しい嬉しい嬉しい!
「あぁ。本当だ」
そう少し赤くなりながら、いつにない優しい笑顔で言ってくれた海馬君。あぁ…幸せ…
お父さん。お母さん。
私…幸せになりますから。必ず…この人と…
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