遊戯王デュエルモンスターズ --古より永久への誓い 番外編 雪の降る街--




は窓の外を眺めた。

ここはKC本社の最上階。

の後ろでは仕事に追われる二人。

街は遠目から見ても分かるほどに活気だっている。

は小さく息を吐いた。

吐いた息が目の前のガラスを数秒の間曇らせた。



古より永久への誓い 番外編 雪の降る街



「姉さま、どうかしたの?」


小さく吐いた息は物を書く音しか響かない

この部屋の中では思ったよりも響いたらしい。


「ううん。なんでもないの。もう、クリマスだなーって思って」

「うん…今年はさすがに忙しいよね」


モクバがうんざりしたように

机の上に山済みにされて書類を見た。


「私が手伝えたらいいんだけどね…役に立てなくてごめんね」


が言うとモクバはとんでもないと

首が取れるのではないかと言うほど横に振った。


「ありがとう」

「 、すまないがコーヒーを頼む」

「分かったわ。モクバ君はココアでいい?」

「うん!ありがとう、姉さま!」


モクバは嬉しそうに笑うと

もうひと頑張りだ、とペンを手に取った。

はその様子に小さく笑って社長室を後にした。


「モクバ」

「なぁに、兄さま?」


二人だけになった部屋にペンの音と

ひそやかな兄弟の会話が広がる。


「仕事を早く終わらせて3人でどこか行こうか」


いつもの兄らしくない言葉に

モクバは手を止めて兄を見つめた。

海馬はそ知らぬ顔でペンを進めるが

その頬に薄く朱が走っているのをモクバは見逃さなかった。


「うん!でも、2人で行ってきてよ。姉さまと最近まともに話してないでしょ?」


モクバの核心を突いた言葉に

海馬はぴたり、と動きを止める。

ゲーム産業のクリスマスは忙しい。

なにせ1年で1番の稼ぎ時だ。

そのため、家に帰ることもままならず

毎日手伝いに来る とも言葉を交わす暇もない。


「姉さまだって、二人でいたいはずだよ!」

「そうだな…」


そう言って柔らかに笑った顔は次の書類で消える。

その様子にモクバは首を傾げて兄に歩み寄った。

そして、その書類を見てモクバもまた顔をしかめた。



12月25日

海馬コーポレーション主催

クリスマスパーティー



その書類は今月25日に行われる

クリスマスパーティーのものだった。

開催場所は『海馬邸』

つまり、自宅だ。

海馬は顔をしかめて少し伸びた前髪をかきあげた。


「兄さま…」


モクバが何かを言おうと口を開きかけたとき

がトレイにマグカップを3つ乗せて戻ってきた。


「お待たせ…どうか、したの?」


2人のあまりにも深刻そうな顔に

なにか重大な問題でもあったのかと

は2人にたずねた。


「なんでもないんだ。25日にうち主催のパーティーがあったなぁって…」

「そういえば…前にそんなこと言ってたような…」


そして、はデスクの書類に目を通す。

それから数少ない友人を思い浮かべる。


「ねぇ、このパーティー…遊戯さんたちを誘ったらどうかな?」

「あ!姉さまいい考えだね!!」

「なっ!!」


の発言にモクバは賛同し

海馬は言葉を詰まらせた。

しかし、の笑顔には勝てず

結局、パーティーは喧しいものになりそうだ。







「すっげぇぇ!!」


城之内の叫びが海馬邸の庭に響き渡る。

木々にはイルミネーションが輝き

パーティー会場のある部屋からは

大きなツリーが見えるようになっている。


「さすがは天下のKCの社長…やることが派手だね」


御伽が不敵に笑う。

それを遊戯が苦笑してみていた。

本田は言葉も出ずに、口をぽかんと開けている。

遊戯たちはタキシードに身を包み

いつもよりも大人っぽい雰囲気だ。

しかし、城之内の言葉がそれをかき消していた。

遊戯たちは景色に目を奪われながら海馬邸に足を踏み入れた。


「遊戯!」

「モクバ君!今日は呼んでくれてありがとう!」

「礼なら姉さまにしろよ

 お前ら呼ぶって言ったの姉さまなんだぜ!」

「そうだったんだ…そういえば、海馬君とさんは?」

「今部屋で着替えてる。このパーティは大企業の社長とか

 つまり、上流階級の人間がたくさんくるんだ。その辺の奴等と一緒の格好じゃ舐められるだろ?」

「そっか…海馬君たちもいろいろ大変なんだね」

「まぁ、オレはたいした事ないけどな

 それより、会場はこっちだ。」


遊戯たちはモクバに案内されて

大きなホールに通される。

そこにはすでにたくさんの人間が居た。

着飾った服たちが彼らを上流階級の人間と認めさせた。


「すげぇ…」

「マジですげぇ…」


ここまでくると城之内と本田も驚くと言うより

目を見開いている。

そこへ、モクバが釘を刺す。


「お前らは、KCの特別ゲストだからな

 みっともないまねして兄さまに泥を塗るなよ!」

「お、おう!」


城之内が口の端を引きつらせて言った

そこに余裕はない。

本田は横で可哀想なくらい青くなっている。


「あ、いたいた」

「浮いてるわね」

「お兄ちゃん、大丈夫かな」


後ろから現れたのは杏子、舞、静香の3人だ。

遊戯たちとは別で来た彼女達は

この会場の中で引けを取らないくらいに綺麗だった。

杏子は淡いブルーのカクテルドレスを身に纏い

舞は深いスリットのセクシーなチャイナドレス。

静香は純白のフレアスカートのドレスだ。

髪型もいつもと違って結ってあり

3人ともまるで別人のようだ。

男子たちがどきどきしてみていると

周りからも3人に視線が集まる。


「みんな、すっごく綺麗だぜ!」

「ありがとうモクバ君」


そこへ、SP数人を引き連れた海馬とが入ってくる。

海馬は白のタキシードを着ている。

は淡いピンクの花びらのようなスカートのドレスを着ている。

長い髪はほんの少しを前に垂らし、彼女の肩先で踊る。

後ろで纏め上げられた髪には宝石のついた髪飾りがあった。

2人の居る場所はまるで別の世界のようだった。

誰もが2人をみて感嘆の息を吐き出した。


「皆さん、今宵はお忙しいところ

 海馬コーポレーション主催の

 クリスマスパーティーに出席いただき

 誠にありがとうございます。

 今宵は仕事のことなど忘れ

 この聖夜をお楽しみください。」


海馬の言葉にホールが拍手に満たされる。

そして、また談笑が戻ってくる。


海馬とは瞬く間に囲まれ

話の中心となった。


「今宵はお招きいただきありがとうございます」

「こちらこそ、お忙しい中お越しいただいて…紹介します

 婚約者の  です」

「初めまして、と申します」

「これはこれは…

 お噂はかねがね伺っておりましたが…お美しいですな」

「恐れ入ります」


海馬はを褒められ少しだけ嬉しそうだった。

しかし、は表面上は笑っているが

内心は憂鬱で一杯だった。




「しかし、海馬もも大変だよなぁ…だって、嫌でもああ言うのと顔あわせなきゃだし…」

「だよね〜にこやかにしてないといけないんだもんね」

『なんだか分からないが…海馬みたいな職に就くと大変だってことか?』

「まぁね…そうだ、もう1人のボクもパーティーを楽しんでよ!」


それだけ言うと表の遊戯は心の部屋に入った。

入れ変わって闇の遊戯が姿を現す。


「あ、相棒!」


その声も空しく遊戯はパーティー会場に現れた。

その様子を城之内が笑いをこらえながら見ていた。







しばらくすると、会場の曲が変わる。

それはダンスの始まりの合図。

それと同時に遊戯たちはたくさんの女性に囲まれる。

杏子たちは男性にダンスを申し込まれる。

その中で杏子は遊戯の腕を掴んでホールの中央に向かった。

舞は城之内を、静香は御伽にエスコートされて

本田は1人取り残され女性にもみくちゃされていた。


「 さん、僕と踊ってください」

「いいえ さん私と…」

「いえいえ、この私と…」

「あ、あの…」


の目の前には身なりを整えた

男性が群がっている。

はおどおどとするが

男性は必死に自分をアピールしている。

運が悪く海馬はどこかの企業の社長に挨拶に行ってしまった。

彼らは今がチャンスとでも思ったのだろう。


「さぁ、行きましょう!」

「あの、困りますっ!」


1人の男が強引に の腕を掴んだ。

が振り切ろうとしたその時


「オレの婚約者に手を出すとは、いい度胸だな」

「か、海馬社長!!」

「瀬人…」


は半泣きの状態で男は冷や汗を流した。

その様子に海馬は表情を厳しいものにする。


「 への無礼はオレの無礼だ。

 身の程を思い知れ!!磯野、そいつをつまみ出せ」

「はっ!」


男は青い顔のまま引きずられていった。

他の男は血の気を引かせて散っていった。


「 、大丈夫か?」

「瀬人…大丈夫…」

「すまない、少し話が長引いた」

「気にしないで、仕事だし…」

そんな に海馬は痺れを切らし

を強引に引っ張ってホールの中央に連れて行く


「あ、え…と、瀬人…?」

「主催者が踊らなくてどうする」

「…うん」


少しだけ照れてばつの悪い顔をする海馬に

は目を見張りそして次の瞬間には笑顔を零した。

二人が現れたことで踊っていた人たちは端により

人に囲まれた二人だけの世界になる。

音楽が変わりゆっくりと体を動かす。

まるでシンデレラと王子の舞踏会のように見えた。

くるり、と回転した を海馬がそっと受け止めて

そして腰に手を回してターンを決める。

が動くたびに花びらのようなドレスが舞って

まるでそこに花が咲いたように見える。


「 、綺麗ね…遊戯、私たちも負けてられないわよ!」

「うぉ!?あ、杏子!?」


杏子に手を引かれおどおどとしている遊戯


「城之内、あたしたちも行くわよ!」

「ちょ、なんでっ!?」

「つべこべ言わずについてきなさい!!」


舞に叱咤されてまるで子犬のようにしゅんとなる城之内。


「静香ちゃん、ボクたちも…」

「静香ちゃん!今度はオレと踊ろうぜ!」

「はい!」

「ちょ、本田く…」

「きゃぁぁぁ、かっこいい〜!」


静香とダンスを踊る本田と

黄色い悲鳴を上げる女性に囲まれる御伽。


「皆、楽しそうでよかったね」

「あいつらのことなど知ったことではない」

「でも、瀬人も楽しそう…目が、いつもより優しいから…」


いつの間にかホールに居た人たちは

皆踊っている。

と海馬はダンスをやめて

そっと向かい合った。


「オレは、お前と二人きりで

 聖夜をすごしたかった…」

「私も…でも、このパーティーも凄く楽しいよ」


が海馬に微笑みかけると

海馬はふ、と表情を崩した。

はその表情にどきり、とした。

海馬は の耳元で小さく囁いた。



―――抜け出そう…



はその言葉に小さく頷いた。







「いいの?主催者が抜け出して」

「大丈夫だろう。あの様子だとしばらく踊ってるだろう」

「そうだね…我が家ながらすごいツリー…」


と海馬はパーティー会場の死角になる場所にいた。

大きなツリーの裏側は二人をパーティー客から隠した。


「メリークリスマス…」

「メリークリスマス、瀬人」


そっと口付けをかわす。

久しぶりのキス…


「あ…雪、雪だよ!瀬人!!」


は大きなもみの木の下から出て

空を見上げた。

真っ黒な空からは白い小さなものがたくさん降ってくる。


「綺麗…まるで、羽が降って来るみたい…」


の手のひらに落ちた雪は

ゆっくりと水になる。


「」


ふわり、とコートをかけられる。

今日の海馬の格好にあわせたコート。

は海馬の温もりの残るコートを握り締めた。


「あったかい…でも、それじゃあ瀬人が風邪を引いちゃうから…」

「オレは…」

「私が、よくないの!」


海馬の言葉を遮って

はコートを脱ぐと海馬の肩にかけて

自分もコートに包まった。


「これで、二人ともあったかいよ」

「ああ…、これを…」


海馬はコートのポケットから小さな箱を出した。

それには綺麗なリボンでラッピングが施されている。


「これ、私に?」

「ああ」

「開けても…いい?」

「ああ」


はそっとリボンを解いた。

そして小さな箱を開いた。


「これ…」


それは、いつも海馬とモクバ、が持ち歩く

カード型のロケット。

決闘都市の一件で壊れてしまったものだ。

しかし、どこも壊れた様子もなく

そして、今度はブレスレットに変化している。

細かな装飾の施されたカード型のロケット。

それを縁取る銀がイルミネーションの明かりで揺れる。

おそらく純銀だろう鎖は細かく、女性向けのものだ。

留め金にはとても精巧に作られたブルーアイズがあった。


「お前のために…作らせた。鎖は切れにくくなっている」

「ありがとう…瀬人…っ」


ぽろぽろと雫が頬を伝う。

外の寒さで冷たくなったそれを

海馬の唇がそっと拭う。


「腕を…」


海馬の言葉にはそっと腕を差し出す。

海馬はに跪いて恭しく腕を取り

そして、その腕に外気で冷たくなったブレスレットをはめる。

は冷たさに体を揺らす。

海馬はブレスレットにキスを落とし

の手の甲にそっと口付けた。

まるで、騎士が忠誠を誓うように…


「せ、瀬人っ…」

「 …愛してる…」


海馬の言葉は冷えた体に染み渡って全身に行きわたる。

はそっと目を閉じて感じる。

それはとても、とても暖かなものだった。


―――不思議…嬉しいのに…

こんなにも暖かくて、そして優しい…

まるで、雲の上に居るようにふわふわする…


そっと目を開けて海馬を見る。

いつもの強い意志の宿る瞳にぶつかる。

は勢いをつけて海馬に体当たりした。


「うわっ!?」

「ひゃぁ!!」


どさ、と2人で地面に倒れこむ。

はそのまま海馬の胸に顔を押し付ける。

少し早くなった鼓動がの心を落ち着けた。


「 …?」

「私も、瀬人のこと愛してるっ」

「――っ!?」


は勢いに任せて言うと海馬の唇にすばやくキスをする。

海馬は驚いて目を見張る。

は耳まで真っ赤になって海馬を見ていた。


「仕返しだ」

「んっ…」


海馬は不敵に笑って の唇を奪った。

雪が回りに降り積もっていく中で

二人は嬉しそうに微笑みあった。




Happy Merry Christmas!!






頭のめでたい人のあとがき。


えー…というわけで、クリスマス夢!何とか25日に間に合いましたね!!(汗)
いろいろ無断で更新を休んだりしましたが企画だけは!と踏ん張ってみました。

皆様のお口に合えばいいのですが…w甘すぎですかね、やっぱり…^^;
クリスマスパーティーとか社長しそうですよね!

お偉いさんのなんかで…ぜひ、ダンスなんぞ踊っていただこうかと…
遊戯たちの出番が少なかった気がしなくもないですが…私の中で遊戯王の主役は永遠に社長ですから!!(ぇぁ)


連載のほうもただいま書いておりますので復帰まで今しばらくお待ちを…


この小説はお持ち帰り自由ですwぜひぜひお持ち帰りください。
ただし、必ず、掲示板にご一報くださいね。それでは、よい聖夜を…

By:竜堂 梨花様&竜堂 恋花様

お前を離さない…

Dream Cafeより 10000HIT企画頂きました。 配布期間 2004.12.25〜2005.01まで

確かに、社長なら自宅での主催パーティーありえますね。
やっぱり、婚約者って所が、社長らしくて、あり得る設定ですよねぇ〜

いやはや、本当に婚約者設定で楽しく読ませて頂きました。
クリスマスらしいです。本当に、素敵な小説でした。

本当に、よい聖夜を・・って感じにされました・・。

By:七瀬 ネイ