それは主が私達の主が気まぐれに作り出した鳥が理由だったに過ぎない・・・。
それでも私達の主はその鳥をけして壊そうとはなさらなかった。
黒鷹:困ったものだね・・・流石に白梟が留守で良かった・・・。
私は溜め息を吐きながら主が抱きしめている白銀の髪の少女を見つめた。
白梟も私もそのような事は一度たりとて主からされた事はない。
にも関わらずこの白銀の鳥、は心穏やかに主に抱きしめられる形で眠っている。
そして我らの主もただを抱きしめる形で眠りに付いているのである。
黒鷹:座ったまま寝るのは構いませんがね主よ・・・を抱きしめては勘弁して下さい。
:白梟が戻ってきたら来たで私が愚痴を聞くはめになりますから・・・。
眠っている主、研究者はそんな黒鷹の言葉すら聞いていないのか穏やかに眠っている。
いつからだろうか、我ら鳥がいやが主にとってはとても大切にされた存在なのか・・・。
黒鷹:あの頃は気まぐれだったにも関わらず・・・主よ。を手放す気はないのですね。
微かに私は溜め息を吐き、過去を振り返っていた。
そうあの頃、主はまた失敗作という理由で箱庭を壊した・・・それが始まりであった。
箱庭の記憶を持つ鳥を作る事を考えた主に対する気まぐれ・・・。
鳥は主に付き従う・・・。
白梟:はぁ、主はまた箱庭を作る事に没頭してるのですね。
その日、私と白梟はお茶を楽しんでいた。主が自分の部屋でを作っている事を我らは知らない。
そんな白梟の言葉にただ私は微かに苦笑をしていた。それでは主は研究に没頭すると時間すら忘れる。
黒鷹:まぁ、仕方がない。主の考えは分からずとも主を支えるのが我らの仕事なのだから・・・。
私はそう告げるなり紅茶を飲んだ。ほのかに甘く、苦い味が口の中に響き渡る。
そんな私の言葉にも聞き飽きたらしく、白梟は溜め息を吐きその場を立ち室内を去っていった。
黒鷹:相当白梟はご立腹というよりも、主に対する信念が強いようだね・・・。
私の呟きは誰の耳にも入ってはいなかった。その室内には私だけ、ただ静寂の時間が流れた。
数時間、いや何時間か過ぎた頃であろう。主がこの部屋を訪れて来たのだ。
研究者:白梟はいないのか・・・。
そう呟くなり、辺りを見回し私一人しかいない事を確認する。
それから何時間か前に既に白梟がいた事が分かる机の上の紅茶は冷め切っていた。
黒鷹:白梟に用事があったのですか?主よ・・・。
そんな私の言葉に主は微かに含み笑いをし、私は微かに疑問を感じたのであった。
けれど主が「見たくば、来る良い・・・。」と告げたので、私は大人しく主の研究室を訪れたのであった。
主の研究室に入った途端、私は瞳を大きく見開き、いつも主が座っている座席を見つめたのであった。
主の座席には白銀の髪をした少女が、黒と白を基調としたドレスを身につけ眠っているからである。
黒鷹:主よ・・どのようなつもりでこれをお作りに・・・。
私は主の座席で眠っている者の存在が即理解出来たのか、主に質問をした。
けれど、主にとっては愚問のような質問であったのか私の質問に即答をしたのであった。
研究者:失敗作の箱庭の記憶を気まぐれにこの鳥に記憶させただけの事・・・。
:別に世界の楔にはならない。この鳥は記憶を維持する為の存在に過ぎないのだからな・・・。
その言葉に私はただ唖然とした。前の世界は作り始めた当初に、主が即座に壊したのであった。
そして次も「人が人を殺さない世界・・・。」を目指し、新しい箱庭を作り始めた。
その為に私はその箱庭の楔になった。当然、新しい鳥、白梟も作り出された。
なのに今更、前の箱庭の記憶を持つ鳥を作るなど考えられなかった。そして私は・・・。
黒鷹:本当に・・・前の記憶の世界を持つ鳥を作ったのですね・・・。
:貴方がこの前壊した箱庭の結晶が跡形もなく消えているのですから・・・。
呆れるしかなかった。この鳥は主の気まぐれで作られた鳥である事を直ぐに理解出来たのだから・・・。
そしてこの鳥が主によって役目が終われば壊される事も即座に理解出来てしまったのだから・・・。
:黒鷹お兄ちゃん・・・ね、遊ぼ・・・。
が作られて直ぐ、主はに感情を入れた。ただは白梟には懐こうとしなかった。
それは当たり前であったのかも知れない。は私と主以外、そう白梟とは初めてであったからである。
黒鷹:・・・奏でてはくれないかい?
は私の言葉にただ無言になった。何処か寂しそうな瞳で、ただ私だけを見つめていた。
は微かに小声で告げた「奏でるなって主に言われたの・・・。」と、その言葉の意味を私は理解した。
黒鷹:、主の前で奏でたんだね・・・いや、主が聞いていただけなのかも知れない。
の表情はますます蒼白になり、その場で泣きそうな顔であった・・・。
私がそのような表情をにさせてしまっているからであるのが事実な訳なのだが・・・。
黒鷹:そうか・・・だから主はをお作りになったのか・・・。
私の言葉にはただ訳が分からないという表情をしていたのであった。
がいつも奏でる歌は、前の世界で楔になった鳥が歌っていたもの、それをが歌えるのは当然なのだが・・・。
主はその歌を知っている。そしてその歌は、私や白梟の前では歌って欲しくはないのであろう。
主にとって、我ら鳥に嫉妬するはずはないと思っていたのだが、私の勘違いであった。
黒鷹:・・・は主がお好きなのだね・・・。
その言葉にはただ「うん」と告げる明るい声があった。私はそんなの表情を可愛らしく感じた。
そして背後の視線に気づき、振り返った時その場にいたのは主そのものであった。
:あ・・・主だ・・・。私、行かなくちゃ・・・。
主に呼ばれれば主の元には直ぐに行ってしまう。主の側にいる時はの姿を見ることは出来ない。
が主から離れない事を白梟はよく思っていない。それでも主はを側においている。
黒鷹:やれやれ・・・主は、を作ったのはそういうつもりですか・・・。
:あの時、あの鳥がお気に入りであったのならば、私を楔にすれば良いものを・・・いや、正確には・・・。
まもなく新しい箱庭が作り出されようとしている。それは事実なのだから変えられない。
私はただ、先程去っていった方向を見つめていった。多分、は主に逆らう事はけしてないだろう。
黒鷹:あの鳥はあの世界が気に入って、そして主に壊された。
:私は止める事すら出来なかった。あの鳥がそれを望んだから・・・。
黒鷹は微かにもうじき楔になる事を理解していた。それでもの事が心配であった。
もうじき完成する箱庭を、と主がどのように思うのか、それが今の黒鷹自身の不安であった。
研究者:箱庭を壊すことにした・・・・・・。
その言葉に銀髪の少女は僅かに震えた。そして、主に抱きしめられているにも関わらず、僅かにまだ震えは修まらない。
それは箱庭が完成され、数年後の事であった。最初の救世主と玄冬生まれ、その結末が終わった後の事であった。
:主は、私を壊すの・・・前の私は箱庭と共に死んだもの・・・。
その言葉に研究者は微かにの髪を撫で、自分の唇に髪を近づけさせた。
の髪からはとても良い香りがしていた。まるで、主の為に用意された香りのように・・・。
研究者:壊しはしない。壊すのはこの箱庭だけ、前のお前の記憶の中にある鳥は私に逆らったからだ。
:それはお前の記憶の中にあるのだから、理解出来てはいるのだろう・・・。
その言葉には微かに震えながらも頷いたのであった。
そんなを研究者は直ぐさま強く抱きしめたのであった。そしての顔を見るなり告げた。
研究者:黒鷹を呼んで来なさい・・・。私はこの塔から出ることはない。
はその言葉に「白梟は・・・。」と呟いたが、主はただ黒鷹のみを呼ぶようにとに告げていたのであった。
は渋々頷き、いつもいた研究者の室内を珍しく一人で出たのであった。
そして空間転移装置を使うなり、真っ先に黒鷹の居る場所へと飛んだのであった。
黒鷹は、空間転移装置が使われた事を理解したのか、目の前に現れた鳥を見つめていたそう銀の鳥を・・・。
黒鷹:あ・・・ははは、っか・・・どうしたのだね、主の元から此処に来る何て・・・。
はただ顔を微かに蒼白にしていただけであった。の中では内心、主に逆らえば壊される・・・。
それだけがの脳裏を支配していたのだから・・・だからは黒鷹の前に現れた瞬間蒼白になった。
黒鷹:主が私を呼んでいるのだね・・・なら行くよ管理者の塔へ・・・。
黒鷹の言葉には思いっきり黒鷹を抱きしめたのであった・・・。
そんなに黒鷹は一瞬動揺をしたが、直ぐにを抱きしめ微かに微笑みその場で空間転移装置を使ったのであった。
研究者:良い度胸だな黒鷹よ・・・を離さぬか・・・。
その言葉に驚いたのは黒鷹よりもの方であった。が背後を振り向けばご機嫌斜めな主がいるのだから・・・。
黒鷹は素直にを手放し、を主の元へと差し出したのであった・・・。
黒鷹:その様子ですと・・・箱庭を壊すのですね・・・主よ・・・。
その言葉にはまた震えだした。そんなを黒鷹は見て見ぬ振りをしたのであった。
そして主は黒鷹を見据え、ただ「言いたい事があるのであろう・・・。」と冷静に告げていた。
黒鷹:主よ、この箱庭を私に預けて下さりませんか?その変わり私は此処に残りますので・・・。
はただ耳をふさぎ聞きたくないという意思表示をさせたのであった。
それはにとっては以前の自分を思い出すような言葉であったからなのだが・・・。
研究者:・・・今回だけだ・・・私はを連れてこの箱庭を去る・・・。
:管理もそして箱庭の維持もお前達鳥に託す・・・。私にとってこの箱庭は失敗作なのだから・・・。
その言葉に黒鷹は溜め息を吐き、はで黒鷹を壊さない主に瞬きをしていた。
過去の自分は、この言葉を告げて壊されたのだ。ある時、黒鷹が主がいない時に教えてくれた事がある。
黒鷹:は主だけの者だから・・・嫉妬されて当然なのかも知れないね・・・。
その言葉の意味からは、が生まれる前の鳥の記憶はただ主にとっては嫉妬の対象であった事が明らかだったのだから・・・。
は一瞬、頬を紅く染め、幼いながらも主の側に行き、主にきつく抱きついていたのであった。
黒鷹:主よ、早くこの箱庭から立ち去って下さい。白梟には私が説明致しますので・・・。
その言葉にはただ慌てだし去っていこうとする黒鷹を止めようとしたが、主によって阻まれてしまったのであった。
そして、主はいつの間にかシステムを全て鳥達に移行させ、箱庭を去っていったのであった。
黒鷹:あれから次に生まれた救世主と玄冬にお咎めをくらって主の元に来たが・・・白梟が哀れというか・・・。
再度、私はいまだに眠り続けるこの二人を見つめていた。
いつから眠っているのかそれは分からないが主にとってはは居場所的存在であったのだろう。
研究者:五月蠅い・・・黒鷹。
その言葉に私はただ笑顔で「おや、起きてらっしゃいましたか・・・」と告げたのであった。
そんな私に主は、「お前が耳元で騒ぐからであろう・・・。」と告げていたのはいうまでもないことであった。
:・・・ん、あれ黒鷹お兄ちゃん戻ってたの?
寝ぼけながら主の腕の中で、は私に気がつき言葉を告げた・・・。
そんな私を見つめながら、主は微かに「最後まで見届けて来たのか?」と訪ねてきたのであった。
黒鷹:白梟には言わないで下さい。彼女はあの箱庭の終わりを知らないのですから・・・。
それだけ呟くと私は去って行く前に質問をした。「次はどのような世界を作るのか」っと・・・。
私の質問に主は微かに微笑み「人が人を殺し過ぎない世界・・・。」と告げていたのであった。
黒鷹:貴方はまたその理想を望むのですね・・・。
呆れながらも私はその場で溜め息を吐き、主との側を離れていった。
それから新たな箱庭に懐かしい存在が降り始めた・・・雪であった。
白梟:雪ですね・・・あの頃の箱庭では雪は忌まわしい存在ではありましたが今は・・・。
雪を見つめている私の背後にはいつの間にか白梟がいた。
私は苦笑しながら「そうだな・・・今は何よりも美しい。」と私らしくない言葉を告げていた。
その雪を主ともただそっと見つめていた・・・。
今にもその雪はをかき消そうとするかのように、それを拒むように主はをきつく抱きしめていた。
鳥はけして主を裏切らない・・・永遠に付き従う存在なのだと・・・と主の関係はけして絶たれることはない・・・。
〜 Bonus Histry 〜
黒鷹:白梟・・・主が箱庭のシステ・・・・これは何だ・・・。
それは白梟が留守の時の話である。黒鷹は主に命じられて白梟の部屋を訪れていた。
ただベッドの上にある代物に目が点になったのはいうまでもない事であったのだが・・・。
黒鷹:主と・・・?つまりこれは隠し撮り・・・。
その場にある写真は全て主との隠し撮り写真であったのだ。
ある時は、抱きしめられながら眠りに落ちていたり、主がと遊んでいる時の写真であった。
黒鷹:いつの間にこれを白梟は・・・主とに知られたらまずいのでは・・・。
何故か黒鷹は微かに冷静ではいられなくなってしまったのであった。
何故ならば、白梟がこのような代物を数枚も持っていた事にである。
白梟:黒鷹・・・。何を・・・///お願いですから主とだけには・・・。
突如入ってきた部屋の主は黒鷹の持っている写真に気がつき錯乱状態なのであった。
そんな白梟に黒鷹は黙っている事を頷きはしたものの、笑いが絶えられないのはいうまでもない事であった。
:お姉ちゃん、お兄ちゃん何笑ってるの・・・主が呼んでるよ?
突如入ってきた写真の張本人の一人に黒鷹も白梟も完全に行動が停止状態になるのはいうまでもない事だった。
そしてその一枚をが拾い見た瞬間、も完全に行動を停止し白梟も黒鷹も双方を怪しい目で見ていたとか・・・。
その後、その写真はもろもろ全て主に回収されたのはいうまでもない事だった・・・・。
〜 Fin 〜
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Music Box/VAGRANCY 志方あきこ by:lai-la |