全ては巡る運命だった。僕達が出会ってしまった事が、僕らにとっては不幸を導いてしまった。
そう闇の一族と僕の一族である光はけして交わる事は出来ない。
その教えは僕に幾度となく父が話しをしてくれた事だった。
けれども僕は、その時出会わなければ良かったと思った・・・彼女に・・・。
これは、僕と君が何も知らなければ良かったと思う事。
ただ僕らの物語は此処から始まりを告げたに違いないのだから・・・。
それが運命だったのかも知れないと分かっていた事・・・。
始まりの序曲は僕らにとってはこの先の未来には残酷すぎたのではないかと思うんです。
闇の一族の名残
穏やかな日差しの中、子供の頃の僕はずっと空を眺めるのが好きでした。
光景を見て、自然の豊かさをしる。そんな在り来たりな存在を僕は好んでいたのかも知れません。
けれどもその日、僕は父に幾度となく闇の一族の治める土地への踏入を禁じられていた。
それなのにも関わらず、子供の頃の僕は、その場所を訪れてしまった。
道に迷ったとでもいうのでしょうか。僕は何時も訪れていた場所だと思っていた。
けれども其処は少しだけ違っていた。僕は知らずに闇の一族の治める土地に踏み込んでいた。
歩きに歩いて、既に夕刻が過ぎようとしていた。
もうじき暗闇が夜を多う。暖かい光がもうなくなり静寂が訪れる。
そんな時、野原に僕は出てしまった。其処にいたのは今、僕が本当に大切にしている君だった。
君は、僕に気が付いたのか、驚いていた。そして僕もその時が初めてだった。
闇の一族をこの瞳で見るのは、互いに同じだった。
彼女は薄衣を羽織っており、白銀の髪が彼女の美しさを保っていた。
「貴方・・闇の者じゃない・・・わね・・。」
君の声は本当に可愛らしいものだと僕はその頃思った。
けれども、君は何かを思ったのか、僕にその言葉を問いかけた。
弁慶:僕は・・・。
「此処に居ては駄目・・早く貴方の里に帰って・・。」
そして、君は何かを察したのか僕の側まで訪れて僕の手を引いた。
そして、森の中に隠れた。君があの時、僕を庇わなかったら・・・僕は既に存在しないだろう。
子供でも互いの里に足を踏み入れた者は死罪だ。
一族でもない者が踏み居るのだから・・・君はその事を既に知っていた。
「探せ・・まだ姫はみつからないのか・・。」
大人の声が、僕の耳元に聞こえた。その時、君は黙っていたね。
そして僕の顔を見つめるなり、大人達が去った後に溜め息を吐いた・・・。
「早く貴方の里に帰ると良いわ・・。」
弁慶:すみません・・それが・・。
君は僕が言う言葉に察しが付いたのか溜め息をまた漏らして、僕に手を差し伸べてくれた。
そんな君は本当に微笑んでいましたね。僕が知っているのはその微笑みでした。
「幾度、貴方の一族が迷い込んでも闇の者は殺めるだけだわ・・。貴方名は?」
弁慶:弁慶・・僕は武蔵坊弁慶・・。
その時、父が話してくれた言葉を僕は本当の事実である事を知らずにいた。
そして此処で真実を君から聴いてしまった。僕と君にとっては残酷過ぎる事だったのかも知れない。
「私・・私は・・。弁慶・・時間ないから、出口教えてあげるね・・。」
そう言うと君は僕の手を引いて、君の一族と僕の一族の里の境界線まで案内をしてくれた。
そして、僕の背中を押すと、彼女は笑っていた。
弁慶:あ・・有り難う・・。
:今日の事は忘れなさい・・もう会うことはないから・・。
そう言って君は里の方へ帰っていった。僕はその時、君の微笑みが何を意味するのか分からなかった。
あれから僕は、何もなく君の事を忘れて、里の中で育った。九郎と共に・・・・。
そして成人するに辺り、僕がその知識を有効に使う為に九郎と共に里の長のサポートをしていた。
そんな中、長年続いていた闇の一族との和平を結ぶ時が来ていた。年に一度、その和平は結ばれている。
今年は長と共に僕も行くことになった。当然、九郎も・・・。
けれどもまさか、君との再会になるとは思わなかった。あれから一度も君に会っていないのに僕には一目で分かった。
忘れるはずもなかった。けれども長の話で君の身分も分かってしまった。
僕の一族にも王はいた。長はその支え・・。今回の和平に限り闇の一族との婚姻をかねた存在を作ると聴いていた。
それは闇の一族が僕の一族の王の妃に迎える事だった。
その事実を知るのはごく僅かだと聴いた。そして僕の一族の王は、まだ若い。
先王が亡くなり、その後を継いだのだから・・当然の事だった。
けれどもそれが、悲惨だった。土地、里の境界線をなくすという和平の依頼により、互いの王が婚姻の儀を協定に持ち出したからだ。
その時、君の身分を僕は知る事になる。君は闇の一族の王の娘だった。
それなのに、僕は君に礼を言えるはずもなくて、君は会うのは最後だと言っていたにも関わらずだ。
九郎:弁慶・・この闇の里は豊かだな・・俺達の里も豊かだが・・。
和平の話し合いまで多少の時間があった。僕は九郎の話を聞きながら、君の事を考え続けていた。
そして何より、君が僕を見つけた時は驚きの眼差しをしていた。
弁慶:九郎・・少しの間、一人になっても構いませんか・・。
九郎:珍しいな弁慶・・お前から頼み込むなんて・・。
九郎は、この里に付いては多少、長からしか聴いていない。土地の事も・・・。
そして今回の和平に関しても・・僕らは最小限度の事しか情報を聴く事は許されておらず。
弁慶:僕にも・・考える事が必要なのですよ・・。
そう良いながらも、僕にとっては君の事で頭がいっぱいでした。
何故、再び再会をしたのか、それは僕が闇の里を訪れたから・・・君は驚いた眼差しで微笑んでました。何故か・・。
僕は、迷いもなく君の元に訪れた。君は何も迷わずに僕を見つめている。
そうこの場所は僕が子供の頃迷い込んだ野原だ・・・その場所を忘れるはずはなかった。
:また・・貴方に会えるとは思いませんでした・・弁慶。
君は、僕の名を覚えていた。僕は既に君の名を忘れているのに、君は僕を覚えていてくれたのですね。
僕は、あれから君の顔だけは忘れる事は出来なかった。君の微笑んだその顔を・・・。
弁慶:何時以来でしょうかね・・。
:今度の和平を貴方は存じて・・。
君の表情は暗かった。何もかも知っているようで、そして何しろ今の君は見目美しい方だ。
あの頃よりも今の君に僕は惹かれていた。なのに、僕は今度の和平の目的の為だけにいる。
弁慶:・・・・・・・。
:何でもないわ・・これからは貴方に会うきかいが多いでしょうから・・。
君はそう話して、僕の前から離れていった。
その時、僕は知っている君が初めて泣いたその顔を・・・。
「では、今度の和平は交流を深める上でも・・王に宜しくお願いいたします・・。」
そう言い僕の代表の長は深々と礼をしていた。
闇の一族は、長と王自らが出向いていた為、言葉遣いには慎んでいた。
そして、その和平のさい、君を僕らの里に連れて行く事になっていた。
そう王に引き渡す為だ・・・。婚姻は身内と長との間でしかしない。君は知っていて、里から離れた。
弁慶:君はこうなる事を分かっていたのですか・・・。
君は僕の顔を見ようとはしない。それ以上に僕が、君の側の護衛役に適任をされてしまったからだ。
君は何もなかったように、全てがうまく行くようにと願っていた。
そう始まりは此処からだった。僕らにとっての運命は・・・。
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