シャーディー:最後にお聞かせ下さい・・。何故、彼女に話さないのですか・・。
:彼女にとっては余りにも隠すのは無理な話です。之は私自身ではなく皆が問いを求むる事・・・。
老婆の元を去ろうとするシャーディーは何も語ろうとはしなかった。
そして何故か、シャーディーは老婆とは長年居たからこそ聴かなければならない事があった。
シャーディー:やはり答えてくれませんか・・貴方様は何もかも一人で背負う・・。
:どうか、皆の考えを・・姫様の考えを真実を伝えて下さい。
シャーディーは老婆の顔を見つめる事は出来なかった。
それ以上に、多少の不安があった。今、語らなければがどの様に思うのかを・・・。
シャーディー:彼女には・・この地は悲しすぎる・・。真実は儚いもの・・。
夜を見つめる時間が、その時ばかりは長く感じられた。
そして首からぶら下げている十字架が月の光でその時は、目映く感じた・・。
何故、時間は止まってくれないのだろうかと・・・。
そんな言葉が、シャーディーの脳裏の中では過ぎり、また儚くも考えを立ち去った。
シャーディー:今は、この時を見つめるしかない・・神官として・・。
が導く未来をシャーディーは分からず、その行く末を手助けするしかなかった。
そんな中で、シャーディーが何を求めるのかもまた分からず・・・。
「儚いもの・・貴方様はどう思われているのですか・・マートの掟を・・。」
シャーディーが立ち去った後に、老婆がその言葉を呟いた事を誰も知らない。
そして老婆は今だに心の中で嘆いていた。何故、この導きがあるのだろうかと・・・。
第二章 継承されし者
矛盾する心が彼女の中にあった。神話だけの物語が現実である事に・・・。
は最初は夢だけの存在だと思った。けれどもそれは本当に実在する物語であって・・・。
そして何より、神殿から外へ出れば、神官達が皆、賢者と呼ばれる理由が分かってしまったように見えた。
空の者は皆が神殿の神官になれるものでもなかった。マートが導き出す・・それは本当の事。
:でも、どうして・・私なのだろう・・私は・・。
はまだその存在に疑問を嘆く、渡されし千年首飾りはにも重荷を背負う。
涙を流すことは出来ず、その秘宝をただそっと見つめるばかり・・・。
マートが何を望むのかも分からない。そんな中で、全ての秘宝の事実が交差する。
そして、は今だに戸惑う。本当の大地が存在する事を・・そして天が空である事を・・・。
:何で、私なのだろう。ねぇ〜どうして・・。
何度説いても、答えを問いただしてくれる者などいなかった。
ただ自分で導くしかなかった。気が付けば、はマートが秘宝を託した場所にいた。
その場所は本当に美しいが、儚くも何処か寂しげな場所。
そしてその水面から映し出されるのはが知らない、もう一つの世界。
その場所を魅入る事こそが、本当にとっての運命の始まりだった。
そしてもう一つの場所で、もう一つの物語は始まりを告げる。
「モクバ・・何をしている・・。」
今だに、夜は続く・・。その中で、兄弟が住まう広場にいた。
その中で弟は自然を見つめていた。水が、流れる噴水は淡く、その場を和ませる。
瀬人は、その場で今を見つめている。前を見つめて生きていた。
そして今もそれは変わらない。そして何より、弟の幸せを瀬人は願っているのだった。
モクバ:兄様・・今日は綺麗だね・・空は・・。
そう言って、モクバは天上を見渡す。地上に浮いている大地を眺めながら・・。
モクバはずっと憧れていた。空の大地を、足を踏み入れる事を・・。
けれどもそれは叶わぬ夢。それでも、全てを知りたい気持ちは幼いからだろう。
そして。天と地の掟を幼いながらも知っている。そしてマートの事を昔のように語らなくなっていた。
瀬人:モクバは本当に空を見つめるのが好きだな・・・。
そう語りながらも見つめる瞳は優しかった。そんな兄に、モクバは微笑む。
そして今が幸せである事をモクバは幸運にも不幸にも思っていなかった。そう昔の自分を思い浮かべて・・。
モクバ:兄様が余りにも見過ぎないんだよ・・。
そう言いながらも兄弟の会話は弾んでいた。
この世界が余りにも醜く、そして美しいと感じられたのは彼らにとってもこの時だけだったのかも知れない。
瀬人:っふ、そうかも知れないな・・。
瀬人は何処か夢を見続ける弟が、本当の幸せを見つめている事を理解していた。
以前から、兄に見せる微笑みはあの頃と変わらないからだった。
モクバ:兄様、見せたいものがあるんだ・・父様には内緒だよ・・。
その言葉に多少の疑問を抱いたのは瀬人であった。
何故、養子としての父に黙る事があるのかと、幼い頃から秘密は兄弟だけの中でしか語らなかった。
けれども、養子に出されてからが全て真実を語らなければならなかった。
養子に出されたから、ただそれだけの理由で嘘を吐くと思われがちであったからである。
其処は泉には不思議な都が移っていた。そしてその場所は空の世界。
モクバは之を見つめるたびに癒されていた。その度に、変わり始めている兄を見つめていた。
モクバ:兄様は・・マートを信じなくても俺は信じる・・。
:だって、俺達が知らない世界がまだあるんだぜ・・・。
そう言いながらその場所を見つめるモクバは本当の意味で、夢を見続けていた。
そして泉の中で人影があった。そう、本人もその場所を訪れていたのだった。
:誰だろう・・とても悲しそうな瞳・・。
そう呟いて、見つめたのは瀬人だった。その瞳には惹かれていた。
何故か、その時から鼓動が早まった。何かに惹かれている事を理解している鼓動だった。
瀬人:彼奴は誰何だ・・モクバ・・。
それは瀬人も同じだった。を見つめる瞳と瀬人が見つめる瞳が重なった瞬間だった。
何故、互いに惹かれ始めたのだろうかと・・・そしてそれが物語の始まりだった。
モクバは首を振る。知らない事を兄に、告げれば兄は溜め息を漏らす。
そして何故か、を見つめている。そう何処かで見つめていたような気持ちを漂わせるその瞳に・・。
そして、マートは瀬人の元にも降り立つ。
その時、何処かで何故か嘆きの声がと瀬人の耳に届いた気がした。
「白と黒・・双方の定めの龍・・目覚めしは嘆きの戒め・・。」
その声はマート自身の声であって、瀬人の足下には千年錫杖があった。
天から落ちてきたのか、物音を立てずにその場に落とされたその秘宝を瀬人は静かに認めていた。
そして彼もまた七賢者に認められてしまったのである。
その嘆きの戒めからの物語に終止符を打てるのは神話では二人・・。そして嘆きは始まりを意味していた・・・。
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Music Box/Amor Kana 音羽 雪 by:深翠を彷徨う命 |