第一章 汚れなき瞳
ただ毒の深手を負い、体に毒が回りつつある1人の妖狐。
彼は、極悪盗賊、妖狐蔵馬。あらゆる財宝を盗み出した盗賊・・。
けれど、不意にも蔵馬は1人のハンターに傷を負わされ毒が回りつつあった。
白銀の髪が、白い粉雪と同色に思わせる。けれど顔色は優れない、既に毒は回り続けているのだから・・。
それでも蔵馬は歩き続けた・・。
だが、それも限界にちかい事は理解していた・・。
白い大地に赤い血の色が染まる。
意識は、もうろうとし始め、蔵馬は気絶していた。
魔界に雪が降ることなど滅多にない。
だけど近くに人の気配を感じる気力は既に蔵馬には残っていた。
そこにただ空色の瞳をした彼女が蔵馬を見続ける。
ただその瞳から一滴の涙・・。
滝の流れる音が近くに響き渡る。
そこに一つの獣。ただその彼女が何を望むのかも分からずに・・。
蔵馬が気が付いた時には不思議な事に傷の手当てがされていた。
何日も眠っていたのか看病された記憶など残っていない。
それに何よりも誰かの住処とされている洞穴。
そこに何日も眠り続けていたのだ・・。それが疑問を呼ぶ。
「気が付きましたか・・妖狐蔵馬」
その彼女は妖気も確認出来なかった。
清らかな心を持っていた。だが同じ同類の妖狐・・。
蔵馬:お前は、天狐だな・・
不意な事を言われたのか彼女は震えた。
この清らかな妖気は、前に何処かで感じた事がある・・。
そう蔵馬は感じた・・。
だけれども、この彼女に会うのは初めてだった。
だが似たような妖気は一度だけ知っている。
九尾狐に一度だけ会い、似たような妖気を感じた・・。
名すらも覚えていない・・。
この彼女は、俺をハンターから守ってくれていたのかと感じる。
それでも彼女の偽りの笑顔は忘れる事は出来ない。
「私の名は、歌穂〔かほ〕。」
その名を聞いても俺は返事をする事を望まなかった。
彼女、歌穂は何故か偽り続ける感情を持っていた。なのに・・。
俺は歌穂という妖狐に、何故か以前あった九尾狐を重ねた。知らぬまに・・。
歌穂:傷はまだ良くないですよ。安静にしてて下さいな・・
やはり、歌穂は心が泣いている・・。
清らかな涙を俺は一度知っている。もう一度その表情を見るとは思わず・・。
|