聖地の祈り









第九節 永久の雫
 
 その一滴の涙は過去を思い出させる・・。
 けれど定めには逆らえない精霊神の運命また掟・・。

 「貴方は生きて・・それが貴方の運命だから・・」

 雨音は既にそこにはない・・。
 鳥達の鳴き声が響きわたる・・空には太陽の光が大地に降り注ぐ・・。

 右腕の古傷が痛み続ける・・。
 けれどその教訓は狐桜に生というものの感覚を味合わせる・・。

 それでも生かされている事が狐桜には後悔する・・。
 母親を失い兄妹を失った・・それでも生きる価値が代価があるのだろうか?

 疑問は更なる疑問を呼ぶ・・。
 幼い頃から精霊神の中で狐桜はずっと姫様と呼ばれていた・・。

 母親や兄妹とは別に暮らされ長いこと自由という存在がなかった・・。
 それが何を意味していたのかも知らずに・・。

 けれど精霊神は滅びた・・過去まだ妖狐だった時の蔵馬に・・。
 狐桜にとって蔵馬は一族の敵・・けれど何故か恨めずにいる・・。

 それでも蔵馬や梅流を追い続けるのは何故か?
 今となっては分からぬ事・・。定めを変え続けたい・・けれど変わらない。

 今の狐桜は人形でしかない・・あの時も・・。
 
 
 今から4年前・・狐桜はまだ14歳だった頃・・。  精霊神は滅び、狐桜はその生き残りとしてずっと彷徨い続けた・・。  尖った耳を町中では覆い言葉すら会話しない・・。  それまでは会話する事をずっと好きでいた狐桜はそこにない・・。  夜の森になど誰も訪れるはずがない・・。  炎の精霊を借りたき火をしていた・・自分の体を冷やさぬように・・。  けれど古傷はずっと痛み続ける・・。  一人の人間が狐桜に恋いをしてしまった・・。  狐桜が精霊神の生き残りである事を企み続け・・。  それでも狐桜自身が抵抗をしなかった・・。  生きているならそれでも母親達の約束を果たすためなら・・・。  一人の人間が一国の王子であった既に妃がいるにも関わらず・・・。  それでもその王子は狐桜を側に置いた・・。  牢獄という部屋で心すらない狐桜に・・。  王子と妃の間になど子供は存在しない・・。  狐桜との間に出来てしまった世継ぎはそのまま王子の世継ぎとして収まった。  けれどそんな日々の中だった・・。  麓は精霊神の生き残りである狐桜を探し出した。  それが狐桜の心を変えさせる切っ掛けとなった・・。  麓はその後もずっと狐桜の側にいた・・。  けれど狐桜から話された碑文は・・。  蔵馬と梅流の運命を決める者だった。  それが全ての事の始まり・・。  
 麓:また考えていたのか・・  その笑いは狐桜を見つめる瞳・・。  狐桜:分からない・・どうして母様は私に生きろと伝えたの・・。  涙は永遠に流れ続ける・・。  麓は側により狐桜の近くに座る・・。  麓:そうやってずっと人形のままでいるのか?  狐桜:蔵馬は私の一族の敵・・けど恨めない・・恨む事ができない・・。  麓:ずっと知っていた・・けどそれならそれでいいと思う・・。  麓はそっと瞳を閉じる・・。  手から一つの水晶が狐桜に託される・・。  麓:覚えていないだろ?お前の母親の精霊石・・。   :精霊神はその雫は枯れる事のない涙らしいな・・だがお前は生きてる・・。  狐桜は水晶を見つめ続ける・・。  麓:悩むこともあるけど・・未来を見つめろ・・  そういって麓は去っていった・・。  狐桜はその後もずっと泣き続けた・・。  けれど決めた結末は・・蔵馬と梅流を見つめる事だけだった・・。

INDEX BACK NEXT

Music Box/Music Box/G2−MIDI 真河 涼 by:遥かな空への鎮魂歌