「この時を・・貴方はどうお迎えになっているのでしょう・・貴方様は自分の娘を・・。」
神殿内の祈りの間。其処には儚くもマートの掟を神話として崇めている象徴もあった。
そしてマートの像は空を静かに見守っていた。そして、老婆にとってはこの年月を恐れ居たのである。
「貴方様はそれでも信じていらっしゃるのでしょうか・・未来を・・・。」
幼い頃、少女を大切にそして守ろうと思った老婆。
そして、幼い少女は既にその面影をなくし、女性へと変わっていた。
そして幼い少女は、何も知らず・・神話を愛しみ、それ故に偽りなく育った。
彼女の名は・・。そして、今日は老婆にとってはけして迎え入れたくない日。
「姫様の誕生日・・そして貴方様が失った命日でもある・・この私は何を話せば・・・。」
老婆は、神殿内の祈りの間で体を震わせながら、言葉を継げていた。
幼い頃に少女に告げていない母の真実。そして、今日マートが紡いだ掟によって宿命が決まる。
天の者には幸運か、地の者には不幸か・・・。
それは分からぬが故・・そして今日は、賢者が舞い降りる日。老婆はそれを望んでいない。
「今だにまだ・・マート様は嘆かれておるのですね・・終焉を・・。」
天には分からぬ終焉の時間・・地での争いはごく僅かしか知らない。
マートが気付き挙げた掟は余りにも残酷を過ぎて、そして終焉の終わりを望むのには奇跡に等しかった。
そして何も知らぬままに、この物語は始まりを告げる・・・。
第一章 儚き宿命
:ばぁ〜やぁ〜?何処行ったんだろう・・。
にとって、今日は自分の誕生日だった。ただ一番に祝って貰いたい者がいた。
何時も、の側で、一緒に笑い。一緒に過ごしてきた大切な老婆。
神殿内の回廊を余り着慣れないドレスで、走り回っている。
何時もは神殿内でも、にとっては何一つ変わりのない生活を行っているのだ。
私服も空の者達とほぼ変わらない。けれども、神殿内に身を潜める一人。
一人の事であっても仕来りなどが存在する。神殿内ではマートの掟を見守るのが役目なのだ。
幼い頃からは神話を聴いて育った。
その話は何処か懐かしい反面、寂しい思いを連想させた淡い物語。
「オゥ〜また・・お探しなのですね・・ばあやを・・。」
そんな言葉が聞こえたのもとある回廊を走りながらの事である。
一カ所の部屋で、書斎で本を読んでいるペガサスがに話かけていた。
:ばあやの居場所?知ってるわけなの・・・。
何時もの事ながらはペガサスにその質問をしてみる。
ペガサスの返答は何時も知らない振りをするのだが、は探しだす。けれども今日は・・・。
ペガサス:ばあやなら・・祈りの間デェ〜ス。
そう話ながら再び本に集中する。はその時、何もかもが疑問に思った。
今日は神殿内では皆が疑問に思うほどに行動が可笑しすぎるのだ。
何時もならをからかい。しまいには、明るい笑い声が耳元に響いてくるのである。
そんな行動が今日はない。ただ神殿内は静まりかえっているのである・・・。
:何だか今日は皆が可笑しい・・どうして・・。
ペガサスに教えられた通り、神殿の祈りの間へと訪れようとしていた。
回廊は広く、迷う者も少なくはない。も幼い頃は幾度となく迷った。
そしてその度に老婆か、老婆の右腕としてまた神殿内の神官としての支えであったシャーディーに助けられた。
幼い頃はこの回廊を一人で歩くのも自信、臆病になっていた程であった。
シャーディー:何がそんなに皆が可笑しいのですか・・姫様。
そんな呟きが聞こえたのか、シャーディーはの背後にいた。
そして普通にその眼差しはに向けられている。首からかけているのは過去、七賢者が持っていた物だ。
秘宝である千年十字架。シャーディーはその秘宝をマートより授けられたと話している。
それでも信じられない話だった。は神話は神話でしかないと思っていたからだ。
:だって皆、何時もと違うもの・・態度が・・。
は今だに今日の皆の態度が分かっておらず、理解不能だと疑問を告げている。
シャーディーはそんなを妹のように見つめていた。幼い頃からを知っているからである。
シャーディー:そんな事はありませんよ・・
:皆、照れているのです。今日は姫様にとって大切な日だからですよ・・。
シャーディーはそう告げて、回廊を再び歩き始めた。何故か、は大切な日という言葉を忘れられなかった。
シャーディーがその場を立ち去った後、直ぐに再び回廊を歩き出した。
:ばぁ〜や・・探したんだから・・。
そう告げると祈りの間では老婆に抱きついた。
老婆はそれを分かっていたのか・・の抱きついた手に触れそっと微笑む。
「姫様は、ばあやを探すのが得意ですね・・。」
何処か老婆の声は寂しげな感じを漂わせていた。
そしてそれを知るのはシャーディーやペガサスなど神官達しか知らない事だろう。
シャーディー:今はただ・・そっと静かにさせてあげたいのです。
そう話すのはシャーディーだった。ペガサスはシャーディーと先程から会話を行っていた。
話の内容も今後の行く末に関わる大切な事・・そして、その中でのの関係。
ペガサス:今日・・もしもマートが光臨したら彼女はどうなるのデェ〜ス。
:過去の神話と同様の結末をたどるのですか?ミィ〜には分かりませぇ〜ん。
何かを悟るように、この世界は動き出していた。
そしてその中で、マートが関わりを持ち出している事も・・・。
その日、は17歳を迎えようとしていた。
そして空の者として神殿に身を潜める事を自ら決めたのである。
そう、は幼い頃、この神殿に一時的に成人するまで育てられていたのだ。
両親がいない孤児は皆、神殿に預けられるか養子にだされるかだったのである。
だが、は幸運にも神殿に預けられた。神殿付近で孤児として老婆に救われたからだ。
そして、養子でもこの世界では余りいない。皆が神殿に神官として祈りを捧げる孤児が多いからだ。
神殿で祭壇などを祭る時に使用される聖地は滅多に立ち入る事は出来ない。
その日、はその場所を訪れた。水はただ水面に何かを映し出している。
それが、地上の者達を写す、唯一の鏡なのである・・。
そして、その場所は余りにも空の者には知らな過ぎる事なのだった。
:綺麗・・・。
そんな言葉がから漏れた時、老婆は何故か寂しげな顔をした。
水面の水を掬い上げるの行動をその側で、マートが見つめているからだ。
「掟の守護者・・マート様ですね・・。」
マートは何も語らない。そしてがマートの存在を知ると驚きの眼差しを見つめる。
そしてマートはに千年首飾りを差し出すのだった。
はそのマートの悲しげな瞳に、それを受け取った。
マートはそれを承諾したのか、その場に消えてしまったのだった。
そして夢でも見ているかのように、その場は静かに終わった。
はその時、本当に初めて知ったのだ。マートの掟の存在に、そして七賢者に・・・。
シャーディー:やはり・・導かれてしまいましたか・・。
が眠りについた夜。老婆はシャーディーだけを呼び出した。
老婆が神殿にいたのは、全ての為だった。神話を伝説としてでしか知らない。
「この運命は過酷かも知れぬ・・じゃが・・姫様にしかキサラ様の柩は背負えぬ・・。」
そう言って、その場の時は静かに流れ出した。
老婆は今後の行く末を知っているのか、老婆の膝に置かれた水晶に手を触れていた。
「そう・・運命は姫様にしか導かれぬ・・。」
老婆の顔からは一滴の涙が漏れていた・・。そして地の者とは交差する・・・。
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Music Box/G2−MIDI 真河 涼 by:水の檻 |