ぷろろ〜ぐ
「我の眠りを覚ますものは何者じゃ?」
綺麗な水の衣もその身に纏った女が寝台からゆっくりと降りる。
その美麗な姿に見惚れるが男はすぐに我に返り用件を伝える。
「我が名は龍牙・・・主の万物をも凌駕する力を欲している者だ。」
「我の力が必要なのか。」
女の空の青よりも青い瞳が妖しく光る。
「さよう・・我々人間は今国と国との間で戦争をしている。
しかし、我が国は戦力が少ないため戦に勝てる見込みがない・・・。
して、主の力が必要なのだ。
だが主は只では協力してはくれぬだろう?」
「よく分かっておる・・して条件は一つじゃ・・
主が我に勝てたら我は主を主(あるじ)と認めようぞ。
我は我より下等な生物には従えぬ。
我を思うがままにしたいのなら我を負かせてみせるがよい・・。
それが出来ぬのなら即刻立ち去るがよい」
女はそう言うと爪を立て大理石より硬い壁をその鋭く尖った爪で切り裂く。
すると、その壁はいとも簡単に崩れ落ちる。
龍牙はその圧倒的な力に気圧されたが拳を握り決意の言葉を紡ぐ。
「・・・・・いいだろう。
我が使える王のため・・・いや国のために我は主を倒そうぞ」
「やってみるがよい。 我にも龍族の誇りがある・・・。
人間無勢にそうそう簡単に負けてやるつもりはないぞ!」
「良かったな・・・龍牙。戦に無事勝てた・・
我は主の使い・・・これからどうするか仰せつかろうぞ」
「そうだな・・・主の活躍が敵対勢力にバレている・・。
ここで主をそう易々と渡せぬからな・・・。
多少窮屈だが次の戦までこの宝珠の中で眠ってもらうぞ」
「それは・・・!主は我を封印すると言うのか!?」
その言葉に龍牙は悲しそうな顔をして答えた。
「前(さき)の闘いで主の力はどれほど驚異的なものか分かった・・・。
我が主を従えるために戦ったとき、主は我に手加減したのだろう?
・・・我は主に勝てたと浮かれておった・・・。だが、主は我よりも力があり・・・
そして、国一つ滅ぼしてしまえるような力を持っている・・
そのような者を野放しにしてはおけぬのだ・・・分かってくれぬか?」
龍牙の言葉に水龍は一歩一歩後ずさる。
「いやじゃいやじゃ・・・
我はそのような宝珠に閉じ込められとぅない・・・。
龍牙!止めてくれ!龍牙!」
水龍は叫びその鋭い爪をブンブン振り回す。
「・・・大人しく我の言う事を聞いてはくれぬか?」
龍牙は初めてその名を口にする。
は涙で頬を濡らし“いやじゃいやじゃ”と言い続ける。
「・・・我は主の力が怖いのだ・・・。
きっと主はその力に溺れいつかこの世界を脅威に陥れるだろう・・・。
我はそれを食い止める義務がある・・・さぁ、大人しく封印されてくれ」
そう言うとの腕を掴みその瞳に妖しく赤く光る宝珠を見せる。
「我・・・・は・・死にとぅ・・・ない・・・。」
瞳の光が少しずつ失われてゆく。
「我は・・・また水園に戻り・・・静かに暮らしたいぞ・・」
「だが、主はいつか人を食らうだろう」
「我はそんな下卑た真似はせぬ」
「我は主のことは信じられぬ・・・。
所詮主も魔物なのだ・・・魔物は我らを騙すのが得意・・・信じられぬ」
「・・・・・嫌いじゃ」
ただ、一言呟くと瞳の色は失われその宝珠に魂を吸い込まれてしまった。
「この体はもはや“塵”だな・・・このまま捨てておいても大丈夫だろう・・・
さて、この宝珠はどうしたものか」
龍牙はそこで考え込み“そうだ”と呟くと屍を抱えと闘い契約を交わした水園へと向かった。
「・・・せめてもの情けだ・・・この湖の中で永遠の眠りにつくかよい。」
そう言うと宝珠と屍をその湖の中に沈めた。
勿論、屍に重石をつけ・・・・・。
「・・・主は本当に恐ろしい力を持っている・・・
だからこのような解決方法しかなかったのだよ・・」
龍牙は瞳に大粒の涙を浮かべキラキラと日の光を浴びて綺麗な光を映す水に手を浸す。
「だが・・・我は見てしまったのだ・・・
主が戦の時笑いながらヒトを殺めているのを・・・我は恐ろしかった・・・
殺めた奴を主は食らっていたのだぞ?
主は、その時の記憶はないのだろう?・・・わかっておる・・・。
水龍である主は肉食・・
目の前で血肉が飛び散れば水龍の血が騒ぐのだろう?分かっておる・・・。
だけどな?これだけは分かっておくれ・・
主の力が暴走すれば我が国が滅ぶのだぞ・・・
それだけは阻止しなけてばならぬ・・すまぬ・・・・・・すまぬ・・・っ!」
静かな湖畔の森に龍牙の押し殺した泣き声が響き渡った。
第一章
「君、エルリック兄弟が久しぶりにここに帰ってくるようだ。私と一緒に駅まで迎えにいくかね?」
「お言葉ですが大佐の仕事は終わったのですか?確か、
先程お渡ししました書類は今日の午後十五時までが〆切だったはずです。
終わっていないのならエルリック兄弟を迎えに行く暇はないはずですが・・・?〆切まで後二時間です。」
狐桜の淡々とした物言いにロイは悲しげに溜息をつく。
「・・・見逃してはくれぬのかね?」
「私は大佐がどうなろうと関係はありません。ですが、
中尉に迷惑がかかりますので仕事を終わらせてから迎えに行って下さい」
そう、にっこりと微笑み言った。
「・・・・・分かったよ・・ならエルリック兄弟は君が迎えに行ってはくれぬかね?」
「私がですか?」
の問いにロイはそうだと頷いた。
「私は構いませんが・・・仕事サボりませんか?」
の瞳が怪しく光る。
ロイはその言葉にハハ・・・と苦笑を漏らし「サボらない」と言った。
「多少大佐は一人にさせるのは心配ですね・・・他の見張りを呼んでおきます・・しっかり仕事して下さい」
そう言うと持っていた書類を机の上に「これも今日の十五時までです」と言い置いた。
「では、失礼致しました」
軽く会釈をし、部屋を出て行った。
部屋を出ると丁度少尉と出会う。
「あ、少尉少々辛い用事を頼みたいのですが宜しいですか?」
「辛い・・・?まぁ、いいけど何?」
「ハイ。私はこれからエルリック兄弟を迎えに行きますので
少尉がそれまで大佐が仕事をサボらないように見張っていて欲しいのですが・・・無理ですか?」
「うんにゃ。別に平気だ。は安心して大将とアルを迎えに行って来い」
「ありがとうございます」
そう、笑顔で言うとパタパタとセントラルの駅まで走って行った。
そして、残されたハボックはのあまりにも可愛らしい笑顔に暫くの間、
顔を真っ赤に染めたまま立ち尽くしていたという・・。
「エドいないな〜・・・まだなのかな?」
呟き、腕時計を見る。午後十四時丁度・・・そろそろ到着してもいい頃だ。
中々見つからないのに痺れを切らし直接駅の改札口まで行こうとしたら・・・!
「おwそこの嬢ちゃん、俺らと遊びに行かない?」
「・・・は?」
あまりに下手なナンパに思わず変な声を出してしまった。
「だーかーら!俺らと遊ぼうよw」
「嫌です」
にっこりと笑いながら断るに男はそれでもしつこく誘う。
「あー!つれないなー・・いいじゃん。
どうせ暇でしょー?それに一人っぽいし・・。俺らとあそぼw」
「・・・しつこいですよ!私は待っている人がいるんです!
だから暇でなければ一人でもありません!だから嫌です」
「そんな事言わないで遊ぼうぜ♪」
そう男が言っての腕を掴んだその瞬間!
「男がいつまでもガタガタ言ってんじゃねぇぇぇぇえ!」
ドグォ
の怒鳴り声と共にアフロ頭の男は鳩尾に見事なまでの拳を入れられた。
「しつこすぎ!」
そう言うと足元に倒れている男の腹部を蹴る蹴る蹴る何度も蹴る。
こうなってくると男が哀れに思えてきてします。
は男の顔のあたりにしゃがみ、悪魔の微笑みで言い放った。
「私は柔道師範代なのwでも、さっきは手加減してたのよ?・・・あんた弱っ・・・」
そう言いプッと笑った。
「この男女が・・・っ!」
「あ゛!?」
男の言葉にの額に怒筋が浮かび上がる。
「人が一番気にしてることを!女に向かって言う言葉じゃねぇぇぇ!」
叫び、両手を地に付ける
刹那
の周りは青よりも青い光が満ちる。それはまるで水のようにも見えた。
「国家錬金術師に喧嘩売った事を後悔するがいいわ!」
そう言った瞬間男の目の前には駅のホームの床で練成された水龍が大きな口を開けて男を見下ろしていた。
「神である水龍の鉄槌くらっとけ!」
の言葉と共に水龍は男の心臓部ぎりぎりの所で動きをピタリと止める。
勿論男は気絶してしまっていた。
「弱っ・・・」
は呟き練成した水龍を元の床に戻した。
「さて・・・無駄な時間くちゃったわね・・・エドもう来てるよね・・・」
そう言って後ろを振り返るとそこには呆然としたエドワードと鎧のため見た目からは分からないが
弟であるアルフォンスが吃驚したまま突っ立っていた。
「あれーwエドにアル!いつのまにいたの!?
声くらいかけてくれてもいいじゃない・・気づかなかったよー」
“声なんかかけられるわけねぇだろ!”
そう叫びたかったがの怒りを買う事は遠慮しておきたいのでエドワードは言わないでおいた。
「まぁ・・・んなこたいいじゃねぇか。それよりソイツどうすんだよ?」
エドワードは未だのびている男を指差す。
「あー・・・私をナンパした挙句に酷い言葉で心を傷つけられたからー・・・
大総統・・・っつか、お父さんに言って終身刑にしてもらうw」
そう、天使の笑顔でサラリと言う。
さすがにエドワードも開いた口が塞がらない。
「終身刑って・・・いくらが大総統の娘でもそれは無理なんじゃねぇか?」
「そんな事ないよー・・・前に“私に嫌な思いさせた奴は牢屋に入れるだけじゃ済まさない!”
って言ってたし・・・うん。終身刑くらいしちゃうよ?お父さんはねw」
「ま・・・まぁ、オレには関係ないからいいけどな」
「そ。エドに関係ない奴の事何か考えなくたっていーの!
さ、司令部に行こw」
「そだな」
「大佐只今エルリック兄弟が戻りました。用件は各地での報告書だそうです」
「ほらよ。大佐。また今回もハズレだったけどな」
エドワードはそう言うとぶっきらぼうに報告書を渡す。
「そうか・・・。で、今回はなんだったのかな?」
「あぁ。村興しに使われてる“イクラ”だった・・・イクラを“赤い石”とかいう名前で売られてた・・・かなりハズレだったよ」
言うと、ソファに深く腰掛ける。
「イクラかぁ・・・私食べた事ないんだよねー・・・食べたかったなー」
「あぁ、がそう言うと思って買ってきといた」
「え?ありがとーーーーーwエド大好きwww」
凄く嬉しそうな顔でエドワードに抱きつく。
エドワードもがいきなり抱きつくからそのまま押し倒される形になってしまった。
「エドにお礼のキスしてあげるーw」
そう甘ったるい声で言うとエドワードの頬を両手で優しく包み込み瞳を閉じる。
「うわっ・・・!!ちょっと待て!」
「んー・・・何で何で何でー?エドは私とのキス嫌なの?」
は唇が触れる数ミリの所で動きを止め文句垂れた。
「そういうわけじゃねぇけど・・・(大佐のヤローの視線が痛いんだよ!)」
「まぁ、いいけど」
そう、呟きエドワードの体から離れる。
「鋼の・・・君たちはいつからそんな深い関係になっていたのだね?」
「そんなんじゃねぇよ!」
「そうですよー大佐wエドで遊んでただけですってばwヤダなー本気に取らないで下さいよー」
「は!?」
エドワードの言葉には「何?」と問う。
「いや・・・遊びって・・」
「あー・・・何?エドもしかして本気にしてたの!?やだぁwエドってば純粋少年ーw」
そう嬉しそうに叫びエドワードの背中をおもいきり叩く。
「いだぁ!」
「あ、ごめん!エド・・でも本気出してないんだけどなー・・・・・
あ!そだ!大佐、書類提出しましたか!?〆切とっくに過ぎてますけど」
の言葉にロイはあたりまえだと言わんばかりに頷いた。
「あぁ。〆切の五分前には出したぞ」
「ギリギリですか・・・たまには余裕を持って提出して頂けると助かるのですが・・・私と中尉がね!」
そう、殺人的な微笑みで言うとエドとアルを置いて執務室を出て行った。
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Music Box/Baby's Breath by:BlueMoon |