第四章
「ね、エド―――」
「どうして黙ってるの?」
「千年越しの再会なんだから、もっと喜んでくれてもいいじゃない」
「とっても・・・とっても愛していたのよ?」
「愛しているからこそ―――」
の髪と瞳がザァ―――と、紅に染まる―――。
「裏切られた時は、愛が憎しみと入れ替わったわ」
「ね。龍牙」
は、妖艶に口を吊り上げて言った。
「さぁ―――
再会の喜びを分かち合いましょう」
「―――っ」
声が出ない。こんな、気持ちになったのはスカー以来か。
恐怖で手足が全く動かないっ!早く、この場から逃げ出したいのに―――!
「あぁ・・・愛しい愛しい龍牙・・早く、
この手で葬りたいわ・・・ねぇ、あなたはどんな死に方がしたいの?」
瞬間
「違うっ!」
恐怖で震える声でそれだけを口にした。
「俺は、"龍牙"なんて奴じゃない!」
「いいぇ、あなたは龍牙よ・・・。
ずっと、ずっと、探していたんだから―――。
千年もの間、あなたをずっと探していたのよ?」
そっと、手を握られ、エドワードの手はの頬へと導かれた。
「ねぇ、あなたに殺されたときの私の気持ち・・・わかる?」
ギリ―――と、手を握られる力が強められる。
「―――っ!」
「愛しい人に裏切られた私の気持ち・・・わかる?」
エドワードの手にの爪が食い込み血が流れた。
ツゥ―――と、流れた血をは愛しそうにぺロリと舐めた。
「あなたは、私が人間を食らったと言ったわね?」
「えぇ・・・そうよ。食べようと"した"わ・・・
神である水龍は、定期的に人を食らわなければ生きていけないの・・・」
「人の血肉が神龍にとっての活力―――」
「だけど・・・ね・・・龍牙」
「私は、人として生きていたかったから、
神龍の生きていく上での本能を・・・断ち切ったのに・・・」
の瞳から透明な雫が滑り落ちる。
「ねぇ・・・あなたは本当に人を食べている私を見たの?」
の問い。懸命な問い。
俺は―――言葉を発せられなかった―――・・・
「ねぇ、どうして答えてくれないの?」
の爪が、更にエドワードの手へと食い込み血が溢れ出す。
「ね・・・本当にあなたが見たのは私なの?」
の瞳は、早く答えなければ殺すと訴えていた。
それは、紛れもない事実。嘘偽りなんかではない。
早く・・・早く、答えなければ確実にエドワードは殺されるだろう。
しかし、エドワードは今だ言葉を発せられないでいた。
既に、恐怖で固まっているのではない。が過去に受けた仕打ち。
千年もの間それを背負ってきた事実に驚き言葉を発せられなかったのだ。
しかし、はエドワードが自身を拒絶しているから答えないのだと思い込み、震える声で吐き捨てた。
「そう・・・どうあっても答えないというのね・・・
なら、いいわ・・・血肉も残さず喰らい尽くしてあげる!」
瞬間―――
の瞳と髪は人の血のように真っ赤に染まった。
赤なんて、生易しいものではない。
真の赤。生々しくも、人目を引く赤―――・・・。
それは、どの赤よりも妖艶で美しかった―――・・・。
「・・」
「命乞いなんてさせない―――・・・
あなたが私にした事はどんな代償を払ったとしても、許される事ではないのだから・・」
だから、大人しく殺されなさいと―――
狐桜は、壊れた人形のように言った。
「それは、無理だ・・・・・」
「―――え・・・」
「俺は、アルと元の身体に戻ると約束しているんだ・・・
だから、死ねない―――っ!」
「それは、聞けないわ・・・
あなたを殺す事のために私はホムンクルスになったのよ?今更、止める事なんて出来ないわ」
「ホムン・・・クルス―――?」
「えぇ・・・」
歌う様に・・・言った。それは、が本気だという証。
エドワードが、どう足掻こうと最期まで追いかけ殺す―――。
「ねぇ、龍牙・・足掻けば足掻くほど苦しむ事になるのよ?
だったら、大人しくひとおもいに殺された方が楽でしょう?」
「断る!俺は、死ねない!」
瞬間・・の声は酷く低いものとなった。
「そう・・・生き汚いのね・・・なら、最期の最期まで足掻いてみせなさい・・
でも・・ね、龍牙。私から逃げられると思ったら大間違いよ・・」
「あなたは、選択肢の間違いで苦しみながら死ぬの・・
さようなら。龍牙。怨むのなら自分を怨んでね」
は、嘲笑しながらその言葉を吐き捨てた。
ヒュン―――
「―――っ!」
の、長い爪がエドワードの頬を掠める。
そこからは、血がツゥ―――と垂れていた・・。
「おまえ・・・」
「ふふ・・・驚いた?
私には、あなたを殺す事なんて赤子の腕を捻るよりも容易い事なの・・」
次の瞬間には―――
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――っ!」
エドワードの左腕は二本の刀剣で串刺しにされていた。
「これっは・・・はっ・・・大総統のっ!?」
エドワードがこの刀を見たのは国家錬金術師資格を受けた時だ。
その時―――大総統が腰に携えていた刀と全く同じだった。
「くっそ―――!
ホムンクルスってーのは本当だったのかよ!」
「あら、まだ信じてなかったの?
なら、これで信じさせてあげるわ」
の身体が、パキパキと別の姿へと変貌していく―――・・・。
髪型から、顔のつくり―――全てが別人になっていた。
「ねぇ、エド?私を・・・殺すの?」
そう言ったのは―――
「ウィンリィ―――?」
「何を驚いているの?エド・・
エドワードがまた無茶な事をしていないか見に来てあげたのに・・・」
ウィンリィは、悲しそうに眉を寄せ、エドワードの傍まで歩み寄り、
その身体を抱きしめた。
「ね、エド・・・もうこんな危険な事をしないで・・・
だから、大人しく殺されて?」
「!?」
エドワードが飛びのいたのは、ほぼ反射的だった。
飛びのいたのと同時にの爪が中を舞った。
は、攻撃を避けたエドワードに対して、小さく舌打ちをすると
瞬時に、ぱきぱきと不快な音をたてて元のの姿に戻った。
「本当に、生き汚いのね・・・避けなければ良かったのに・・・」
「そっちが、その気なら俺も本気を出してやる!」
エドワードが、そう言うとは嬉しそうに微笑んだ。
「そう、なら暫くは相手をしてあげる・・精々、私を楽しませて頂戴ね?」
「望むところだっ!」
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Music Box/遠来未来-Enrai_Mirai- by:霞ヶ月 |